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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年11月5日09時35分 北海道奥尻郡奥尻町青苗港 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第三勘成丸 総トン数 492トン 全長 54.86メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 698キロワット 3 事実の経過 第三勘成丸(以下「勘成丸」という。)は、船尾船橋型鋼製の石材運搬船で、船首部にクレーンを装備し、A受審人ほか4人が乗り組み、砕石約720トンを積載し、船首3.2メートル船尾4.4メートルの喫水をもって、平成9年11月4日11時25分北海道松前郡福島町吉岡漁港を発し、北海道奥尻郡奥尻町青苗港に向かった。 ところで、青苗港は奥尻島の南端東側に位置し、同港の南端部から北東方向に約570メートル延びている南防波堤と、同防波堤先端から北西方沖に築造された長さ約110メートルのへの字型の東防波堤で同港の入口が形成され、両防波堤の間隔は約70メートルとなっていた。 また、北防波堤が同港北端部の船揚場東端から南防波堤とほぼ平行に南西方向へ約190メートル延び、そこから更に南南東方向に約220メートル延びてくの字型となっており、その南端と南防波堤との間隔は約60メートルとなっていた。 港内には、北防波堤にほぼ平行してその西方約140メートルのところに喫水が3.0メートルから4.0メートルまでの船舶が利用できる岸壁があり、それぞれマイナス3.0メートル岸壁、マイナス3.5メートル岸壁及びマイナス4.0メートル岸壁と呼称されていた。そして、同港南端部にある船溜(だま)り北側の護岸から347度(真方位、以下同じ。)方向に築造された岸壁の南寄りの110メートルの区間を、マイナス4.0メートル岸壁として、函館開発建設部が喫水4メートルまでの船舶が利用できるよう、同岸壁に離着岸する際の操船海域を浚渫(しゅんせつ)し、平成6年12月に同部江差港湾建設事務所が測深を行っていた。 この測深結果によると、操船海域中の最小水深として4.2メートルの浅所が同岸壁南端部及び同南端部から東北東方沖合70メートルの、青苗港北防波堤灯台(以下青苗港の冠称を省略する。)から214度100メートルの地点に存在し、同浅所は平成7年12月14日刊行の海図第32号奥尻島分図青苗港に記載されていた。 A受審人は、平成9年11月4日吉岡漁港において青苗港に運搬する砕石を積載するにあたり、青苗港の着岸予定岸壁の操船海域に存在する前記の水深4.2メートルの浅所を考慮し、同水深を超えないよう喫水調整をしておかなければならなかった。しかし、同人は、同8年9月に勘成丸で船長となり、同月船長として初めて瀬棚港から砂を積載して奥尻港に入港したとき、勘成丸より大きな船型で喫水の深い船が青苗港に入港していると聞き、また、勘成丸が備え付けていた昭和64年1月4日刊行(平成6年6月補刷)の海図第32号には、最小水深が3.5メートルと記載されていたことから、同港の水深が浅いことを気にはしていたものの、その後船長となって以来20数回青苗港に入港し、4.5メートルばかりの喫水で支障なく入港できていたので、最新の海図を購入して最小水深を確認することや、関係箇所に問い合わせて正確な水深を確認するなどして水路状況を十分に調査することなく、4.4メートルの喫水でも大丈夫と思い、操船海域に水深4.2メートルの浅所があることに気付かないまま、喫水調整を行わずに砕石をほぼ満載して吉岡漁港を発航したものであった。 平成9年11月4日17時22分A受審人は、青苗港は操船海域が狭いので夜間の接岸作業を避けて昼間に行うこととして北防波堤灯台から053度600メートルの地点に錨泊し、翌5日09時27分倉内の後方の積荷の砕石をクレーンにより前方に移動するなどして喫水調整を行うことや、潮汐表を調べて高潮時に入港する計画を立てずに抜錨のうえ、一等航海士を船首に配置し、自らが船橋で操舵繰船に当たってマイナス4.0メートル岸壁に向かった。 09時28分半A受審人は、北防波堤灯台から050度380メートルの地点で、針路を南防波堤に沿う225度とし、機関を微速前進や停止など種々に使用して対地速力を2.0ノットとして進行したのち、同時34分少し前北防波堤を右舷側に20メートルばかり離して航過したあと、マイナス4.0メートル岸壁に左舷付けするため船尾が北防波堤を替わると同時に右舵をとって右転を開始し、船首から岸壁までの距離が約100メートルになったとき、右舷錨を投錨した。その後同人は、微速で前進を続けながら右舵一杯をとって、右回頭を行い、295度を向首して船首尾線が岸壁に対して50度ばかりの角度になり、船首から岸壁までの距離が25メートルばかりとなったとき、突然船尾船底部に衝撃を感じ、09時35分北防波堤灯台から214度100メートルの地点の浅所に乗り揚げた。 当時、天候は曇で風力3の西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期を過ぎ、潮高は17センチメートルであった。 その後、船首に続き船尾から係留索を出し、両係留索を巻いて自力で離礁し、09時40分左舷付けで予定の岸壁に接岸した。 乗揚の結果、船底外仮に擦過傷、ビルジキール及びプロペラ翼に曲損並びに舵頭材に損傷を生じたが、のち函館港に回航後修理された。
(原因) 本件乗揚は、北海道奥尻島の青苗港に入港するにあたり、水路調査が不十分で、港内の操船海域の最小水深に合わせて喫水を調整しなかったことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、北海道奥尻島の青苗港に砕石を積載して入港する場合、港内の操船海域にある最小水深に合わせて喫水を調整するため、港内の操船海域の最小水深などの水路状況について最新の海図を購入したり、関係箇所に問い合わせるなどして十分に調査すべき注意義務があった。しかし、同人は、接岸予定のマイナス4.0メートル岸壁には、過去に喫水4.5メートルばかりで支障なく接岸していたので喫水4.4メートルでも大丈夫と思い、水路状況を十分に調査しなかった職務上の過失により、操船海域に水深が4.2メートルの浅所があることに気付かずに最小水深を超える喫水で入港して同浅所に乗り揚げ、船底外板に擦過傷、ビルジキール及びプロペラ翼を曲損並びに舵頭材を損傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |