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1998年(平成10年)

平成10年門審第93号
    件名
プレジャーボートエスペランサー乗揚事件〔簡易〕

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年12月17日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤寛
    理事官
副理事官 新川政明

    受審人
A 職名:エスペランサー船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
左舷船底ボックスキールに小亀裂

    原因
水路調査不十分

    主文
本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年7月30日01時00分
関門港北部和合良島
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートエスペランサー
全長 6.99メートル
機関の種類 電気点火機関
出力 58キロワット
3 事実の経過
エスペランサーは、FRP製プレジャーモーターボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、機関の試運転を兼ねた魚釣りの目的で、船首0.30メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、平成10年7月29日17時30分北九州市若松区向洋町のひびき川河口から約350メートル上流北岸の定係地を発し、同区沖合に向かった。
18時00分A受審人は、ひびき川沖合の沖ノ曽根の防波堤近くで、脇田港G防波堤灯台から053度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点に着き、直径10ミリメートルの錨ロープの付いた7.5キログラムの錨を船尾左舷から投じ、これを約23メートル延ばして錨泊し、魚釣りをして鯵(あじ)10匹を獲たのち、翌30日00時0。分帰航する予定で抜錨して同地を発航したが、間もなく、潮位が高いので定係地の手前に架かっている橋梁下を通航できないことに気付き、同乗者と相談して急遽(きょ)帰航を取り止め、夜明けまで関門港北部の馬島沖合に仮泊して早朝から蓋井島西方沖含で漁釣りをすることに予定を変更し、馬島の南東沖合に向かった。
ところで、関門港北部には、和合良島、馬島、片島及び六連島の島が存在し、これらの島周辺には、干出岩や岩礁などが多く散在し、南側の和合良島と北側の馬島間には、馬島寄りにある馬瀬と和合良島北側へ拡延した千出岩との間に、南西方か北東方に延びる幅約100メートル、水深約2.5メートルの水道があり、水路状況を十分承知していた地元の小型船などが同水道を利用していた。
A受審人は、同年4月にエスペランサーを購入して以来、夜航海をすることも、長距離を航海することも初めてで、関門巷化部の海域に向けて出航するにあたり、関門港一倉良瀬戸のヨット・モータボート用参考図H-191(以下「参考図」という。)を常備し、同参考図には詳細な浅瀬や水深などの記載がなかったが、以前に所有していた船外機付ゴムボートで馬島付近を数回航行して水路状況を分かっているから大丈夫と思い、関門港北部の水路状況を詳細に記載した大縮尺の海図第1264号(関門北部)などの関係図誌を備え付けることなく、同図誌を見るなどして水路状況を十分に調査しなかったので、馬島周辺に多数の岩礁や馬島と和合良島間に馬瀬が存在することを知っていたものの、和合良島の北側に約130メートルにわたって千出岩が拡延していることに気付かなかった。
こうして、A受審人は、同乗者を後部フロアーに休ませ、立って舵輪を持って見張りに当たり、関門港若松区第6区の安瀬航路第6号灯浮標北側近くを経て、関門第2航路第2号灯浮標と安瀬航路第1号灯浮標との中間地点に向かい、00時52分馬島港B防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から220度1,620メートルの地点に達したとき、針路を同灯台に向かう040度に定め、機関を微速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力で進行した。
00時57分少し過ぎ、A受審人は、和合良島の南端を迂回するつもりで右転したが、馬島の街の灯火を見て、馬島と和合良島間の水道を通れば近道になるものと考え、水路事情が不案内で少し不安があったものの、無難に通航できるものと思い、同水道を航行することが危険であることに気付かないまま、同時58分少し前、防波堤灯台から209度525メートルの地点に達したとき、針路を065度に転じたところ、和合良島北側に艇した千出岩に向けて進行することになった。
A受審人は、和合良島北側の干出岩に向かっていることに気付かないまま、同じ針路、速力で続航し、01時00分わずか前、前方近くに白波が立っているのを認め、機関を極微速力の4.0ノットに減じて進行中、01時00分防波堤灯台から155度300メートルにあたる、和合良島北側の干出岩に、エスペランサーは、原針路、原速力のまま乗り揚げてこれを擦過した。
当時、天候は曇で風力2の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
A受審人は、乗揚の衝撃で機関を止めて点検したが、異常を認めなかったので、北九州市馬島漁港の防波堤近くに錨泊し、更に、中央ハッチ内にある点検穴からボックスキール内の浸水の有無を調べたところ、極微量の浸水を認めたので、02時00分同地を離れて若松区柳崎町平尻に回航して砂浜に船体を引き揚げた。
乗揚の結果、左舷船底ボックスキールに小亀(き)裂を生じたが、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、関門港北部海域の馬島及び和合良島付近を航行するにあたり、大縮尺の海図などの関係図誌を備え付けず、水路調査が不十分で、馬島と和合良島間の水道を航行し、和合良島北側に拡延した干出岩に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、関門港北部海域の馬島及ひ和合良島付近を航行する場合、初めての夜航海で、水路事情が不案内であったから、出航時に関門港北部海域における大縮尺の海図などの関係図誌を備え付けて水路調査を十分に行うべき注意義務があった。
しかるに、同人は、以前、昼間に船外機付ゴムボートで馬島付近を数回航行して水路状況を分かっているから大丈夫と思い、出航時に大縮尺の海図などの関係図誌を備え付けないで、水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、夜間、馬島と和合良島間の水道を航行することが危険であることに気付かないまま、同水道を通航して和合良島北側に拡延した千出岩に向けて進行し、これに乗り揚げて擦過し、左舷船底ボックスキールに小亀裂を生じさせるに至った。






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