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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年6月19日07時20分 長崎県対馬東岸 2 船舶の要目 船種船名
漁船第五八大丸 総トン数 19.83トン 登録長 16.41メートル 機関の種類
ディーゼル機関 漁船法馬力数 190 3 事実の経過 第五八大丸(以下「八大丸」という。)は、専らいか一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が同人の妻の甲板貫と乗り組み、操業の目的で、平成9年6月18日13時00分、操業の基地としていた長崎県北松浦郡田平町田平港を発し、対馬南方沖合の漁場に向かった。 A受審人は、19時40分対馬の神埼灯台から219度(真方位、以下同じ。)14.2海里の漁場に着き、機関を中立として漂泊し、集魚灯を点灯したのち、東方に流されながら、いか釣り機8台を操作して翌朝まで操業に当たり、やりいか約120キログラムを獲たところで操業を打ち切り、予定していた船舶の検査を受けるため、根拠地の同県下県郡美津島町三浦湾漁港の犬吠地区に向けで帰航することにしたが、前日出港してから操船と操業に当たって休息をとっていなかったので、睡眠不足と疲労から眠気を感じていた。 19日04時40分A受審人は、船首0.9メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、法廷灯火を点灯し、神埼灯台から188度12.5海里の地点を発航し、GPSプロッターを見て針路を対馬東岸の三浦湾入口の折瀬鼻灯台と対馬黒島灯台の中間に向かう、023度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流で1度ばかり左方に寄せられながら9.9ノットの対地速力で自動操舵により進行した。 発航後、A受審人は、甲板員を賄室で寝かせ、操舵室中央の舵輪後方にある、横幅0.80メートル奥行き1.80メートルで床上の高さ0.60メートルの板敷に腰掛け、単独で見張りに当たり、06時40分ごろ同県厳原港の東方沖合を航過したのち、行き会う船舶がいなくなったことから気が緩み、睡眠不足と疲労から眠気を催すようになったが、あと1時間ほどで入港するから居眠りすることはないと思い、立ち上がったり、外気に当たるなど眠気を払拭(ふっしょく)することも、甲板員を起こして2人当直にするなどの居眠り運航の防止措置をとることもなく航行した。 A受審人は、潮流により左方の陸岸に寄せられていることを知っていたが、水深が岸際まで深いので、陸岸に接近してから転舵するつもりで、依然、腰掛けたまま見張りに当たっているうち、06時54分半大梶崎を左に見て並航したころ、板敷に仰向けになって居眠りに陥り、居眠り運航となって対馬東岸の紺青鼻近くの陸岸に向かって北上した。 A受審人は、居眠り運航のまま、陸岸に向かっていることに気付くことなく続航中、07時20分船首に強い衝撃を受け、折瀬鼻灯台から216度1.2海里の陸岸に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力2の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。 A受審人は、衝撃で目覚めて乗り揚げたことを知り、機関を後進にかけたが自力離礁できず、海上保安部などに救援を求めた。 乗湯の結果、八大丸は、船底に多数の破口を生じて浸水し、翌20日手配した造船所の起重機船によって吊り上げ作業中、船体が船首部と船尾部に二分し、船首部は陸揚げされたが、船尾部が水没して廃船とされた。
(原因) 本件乗揚は、長崎県対馬南方沖合の漁場から、対馬の三浦湾に向けて帰港中、居眠り運航の防止措置が不十分で、対馬東岸の紺青鼻近くの陸岸に向かって進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、単独で操舵と見張りに当たり、長崎県対馬南方沖合の漁場から対馬の三浦湾に向けて帰港中、眠気を催した場合、居眠り運航の防止措置として、甲板員を起こして2人当直とするべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、あと1時間ほどで入港するから居眠りすることはないと思い、甲板員を起こして2人当直としなかった職務上の過失により、居眠り運航に陥り、潮流により左方に寄せられながら、対馬東岸の紺青鼻近くの陸岸に向かって進行して乗揚を招き、八大丸の船底に破口が生じて浸水したうえ、吊り上げ作業中に船体が二分して船尾部が水没し、廃船とするに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。 |