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1998年(平成10年)

平成10年広審第77号
    件名
漁船魁丸乗揚事件〔簡易〕

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年12月10日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

釜谷奨一
    理事官
副理事官 尾崎安則

    受審人
A 職名:魁丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
船首部に凹損

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年3月25日03時00分
鳥取県網代港
2 船舶の要目
船種船名 漁船魁丸
総トン数 59.99トン
登録長 25.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 264キロワット
3 事実の経過
魁丸は、一艘(そう)びき沖合底びき網漁業に従事する船首部に操舵室を有する可変ピッチプロペラを装備した鋼製濃船で、A受審人ほか6人が乗り組み、白はた漁等の目的で、船首2.5メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、平成10年3月21日08時00分鳥取県網代港を発し、島根県隠岐諸島南方の漁場に向かった。
同船の当期間中の操業形態は、早朝あるいは夜間に出航して約1時間半かけで漁場に着き、適宜、魚群を探査しながら移動して1日ないし1日半かけて操業を行い、05時の水揚げ時刻に間に合うよう帰港するものであった。
1回の操業時間は、網のかけ回しに約20分、揚網に約30分、曳網に約1時間を要し、これを1日に8回ばかり繰り返し行うもので、A受審人は、操業中、操船の合間をみては2時間ほどの仮眠を船橋でとるほかは他の乗組員に有資格者が乗船していないこともあって、往、復航の操船にも従事していた。
A受審人は、船橋当直体制を定めるにあたり、同人が、操業に引続き航行中の操船にも従事して作業が連続することから、往、復航時の航行には、居眠り運航の防止に備えて、平素から、甲板員を2時閥交代で昇橋させ、2人直で船橋当直にあたるようにしていた。
こうしてA受審人は、越えて24日23時00分白はた約6キログラムを漁獲したところで操業を終え、網代埼灯台から295度(真方位、以下同じ。)35.8海里の地点を発し、あらかじめビデオプロッターに入力してある網代港入口までの方位線に合わせ針路を115度に定めて操舵を自動とし、機関を9.2ノットの全速力前進にかけて進行した。
ところで、同船の3月期における操業は、ほぼ連日して行われていたことから、網の整備が必要となり、このため発航後甲板員は全員で網の修理作業に従事することとなったため、A受審人は、帰航にあたり、単独で船橋当直に従事することとなった。
A受審人は、当直にあたり、疲れを感じると、わずかの間いすに腰かけ、その後、適宜、操舵室を歩き、レーダーを監視して操船に従事していたところ、翌25日02時37分3海里レンジに設定したレーダーで、前方に網代港の映像を認め、同時40分半網代埼灯台から291度2.5海里の地点に達したとき、入港時刻を調整するため機関を半速力前進とし、7.7ノットの速力で続航したが、連続した作業とレーダーで目的地を確認したことから気が緩み、間もなく軽い眠気を感じたが、あとしばらくの時間我慢すればよいと思い、窓を開放するなどして冷気にあたるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、操舵スタンド左方にあるビデオプロッターの上に両肘を付いた姿勢となって見張りを行っているうち、いつしか居眠りに陥り、同時58分網代埼灯台から249度0.5海里の地点に達し、網代港の第1防波堤西端の北方に並航したころ進路が左方に偏して、同防波堤東端と地坊波堤との屈曲部に向けて進行していたが、このことに気付かず続航中、魁丸は、03時00分網代埼灯台から222度690メートルの同防波提東端外側に設置された消波に原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、魁丸は船首部に凹損を生じたが、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、操業を終えて網代港に向け帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、網代港の第1防波堤東端と北防波堤との屈曲部に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、操業を終えて網代港に向け帰航中、眠気を感じた場拾、居眠り運航とならないよう、冷気にあたるなどして居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに同人は、あとしばらくの時間我慢すればよいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、網代港の第1防波堤東端と北防波堤との屈曲部に向首進行して乗揚を招き、魁丸の船首部に凹損を生じさせるに至った。






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