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1998年(平成10年)

平成9年広審第85号
    件名
プレジャーボートマニヤーナ乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年12月2日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

織戸孝治、杉崎忠志、黒岩貢
    理事官
向山裕則

    受審人
A 職名:マニヤーナ船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首船底部に破口

    原因
船位確認不十分

    主文
本件乗揚は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年5月3日12時20分
岡山県前島南方沖
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートマニヤーナ
登録長 7.29メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 11キロワット
3 事実の経過
マニヤーナは、船体中央部にキャビンとマスト1本を有し、磁気コンパスを備え、船尾にある操縦席にて操舵、機関及びセールの各操作が1人でできるよう設計されたFRP製プレジャーヨットで、A受審人が1人で乗り組み、知人1人を乗せ、岡山県牛窓港沖の前島周遊の目的で、バラストキール下端まで1メートルの喫水をもって、平成8年5月3日11時30分牛窓港県営マリーナを発し、前島南西方に向かった。
ところでA受審人は、ヨットやモーターボートの乗船経歴が長く、平成3年マニヤーナを海洋レャーに使用するつもりで購入してからほぼ毎週同艇に乗船しており、前島周辺も幾度となく周遊し、同島周辺の千出岩の位置を熟知していた。また、当日の航海計画は、発航後南下して前島南西方に至り、同島南側水域を東行して同島と黄島の間を抜け、青島東方から前島北側水域を経由して発航地点に戻るものであった。こうしてA受審人は、発航時から操舵操船に当たりして南下し、11時42分蓬埼灯台から123度(真方位、以下同じ。)1.450メートルの地点で、メインセールとジブを展帆し、機関を停止して帆走により、折からの弱い南寄りの風を受けて3.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、針路を070度に定めて自動操舵で進行した。
定針後、A受審人は、船尾の操縦席で見張りに当たりながら続航し、12時09分半蓬埼灯台から092度3,600メートルの地点に達したとき、無風となったのでジブのみ縮帆し、再度機関を全速力前進にかけ5.5ノットの速力で進行し、同時18分備前黄島灯台から332度1,080メートルの地点で、針路を090度に転じて続航したが、前島と黄島の間の幅600メートルばかりの狭い水路のほぼ中央部には干出岩が存在することを知っており、当時、同干出岩は水面下に没して視認ることができなかったので、同干出岩に乗り揚げないよう、船位を十分に確認して水路の中央より黄島寄りを航行する必要があった。
しかしながらA受審人は、転針時、平素は前示干出岩の上面に釣船が集中していたことから、左舷船首方に数隻の釣船を認めたとき、これらを目安にすれば千出岩を避けることができ、自船は同干出岩の南側を無難に航行することができると思い、コンパスや周囲の地形により船位を確認しなかったので、当該釣船が前示干出岩の北方に占位し、自船は水路中央部に存在する同干出岩に向首進行していることに気付かず、乗船者と雑談を交わしながら進行中、マニヤーナは、12時20分備前黄島灯台から350度950メートルの千出岩に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風はなく、潮候は下げ潮の初期であった。
乗揚の結果、船首船底部に破口を生じ、来援した所属マリーナ艇により引き降ろされ、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、前島周遊中、船位の確認が不十分で、同島と黄島のほぼ中央部に存在する干出岩に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、前島周遊中、ほぼ中央部に干出岩が存在する同島と黄島の間の狭い水路を東行する場合、同干出岩が水面下に没して視認できなかったから、同水路中央部を避けて黄島寄りを航行できるよう、コンパスや周囲の地形により船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに同人は、当時前示干出岩の北側に釣船が占位していたが、平素は同干出岩の上面に釣船が集中していたことから、左舷船首方に数隻の釣船を認めたとき、これらを目安にすれば干出岩を避けることができ、自船は同干出岩の南側を無難に航行することができると思い、コンパスや周囲の地形により船位を確認しなかった職務上の過失により、同干出岩に向首進行して乗揚を招き、船首船底部に破口を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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