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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年8月20日18時40分 周防灘 2 船舶の要目 船種船名
貨物船さつき丸 総トン数 199トン 全長 57.40メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 661キロワット 3 事実の経過 さつき丸は、主として鋼材を輸送する船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか3人が乗り組み、空倉のまま、船首1.2メートル船尾2.6メートルの喫水で、平成9年8月20日14時50分関門港小倉区を発し、大阪港に向かった。 A受審人は、同月16日の正午前徳島小松島港で初めてさつき丸に乗船し、船橋当直を自らを含めて一等航海上及び次席一等航海士の3人で単独4時間の3直制とし、自らは4時から8時の時間帯の当直に当たり、徳島小松島港を出港して名古屋港に至り、同港で鋼材を積載後、鳴門海峡及び瀬戸内海を通航して関門巷に向かった。 ところで、A受審人は、自身の船橋当直、入出航操船及び狭水道通狭時の操船指揮に加え、同船に搭載された新しい機器類の操作や初対面の乗組員への気遣いのため緊張し、十分に睡眠をとることができない日が続いていた。 A受審人は、同月20日00時45分関門港に入港着岸して自室に戻ったものの、荷役開始時刻がはっきりしなかったことから、ベッドに入って眠るわけにもいかず、いすに腰を掛けたまま2時間ばかりうとうとしただけで、08時00分から揚荷役が始まり、その後、当直作業がなかったので眠ろうとしたところ、既に日が昇って明るくなっていたほか、神経が高ぶっていて十分な睡眠をとることができず、更に疲労が重なっていた。 発航操船後いったん降橋したA受審人は、15時50分ごろ下関南東水道第1号灯浮標付近で再び昇橋して単独で船橋当直に就き、同水道の推薦航路線に沿って東行し、16時41分本山灯標から238度(真方位、以下同じ。)3.3海里の地点で、自動操舵のまま針路を103度に定め、機関を全速力前進にかけ12.0ノットの対地速力で、船橋内中央部少し左舷よりのレーダー後方に置かれたいすに腰を掛けて見張りに当たって進行した。 A受審人は、乗船後十分な睡眠がとれず、気苦労もあったことから、強い疲労を感じていたので居眠りに陥るおそれがあったが、平素から船橋当直中に居眠りをしたことがなかったので、まさか居眠りに陥ることはあるまいと思い、居眠り運航とならないよう、昼間だけ機関部の作業に当たり、時々船橋に顔を出していた機関長を呼び、見張りに当てるなどの居眠り運航の防止措置をとることなく、そのままいすに腰を掛けて当直を続けるうち、いつしか居眠りに陥った。 こうして、さつき丸は、A受審人が居眠りに陥り、折からの潮流により3.5度右方に圧流され姫島北西岸に向首したまま続航中、18時40分姫島北浦港南防波堤灯台から031度1,100メートルの浅礁に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力3の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 乗湯の結果、船首及び船尾の船底に凹損を生じたが浸水はなく、自力で離礁し、予定の航海を終えたのち修理された。
(原因) 本件乗揚は、周防灘を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、姫島北西岸の浅礁に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、単独の船橋当直に就き、周防灘を東行中、睡眠不足と気苦労により強い疲労を感じた場合、居眠り運航となるおそれがあったから、昼間だけ機関部の作業に当たり、時々船橋に顔を出していた機関長を呼び見張りに当てるなどの居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、機関長を見張りに当てるなどの居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となって浅礁に乗り揚げ、船首及び船尾の船底に凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |