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1998年(平成10年)

平成9年神審第116号
    件名
貨物船第六拾八宝来丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年12月8日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、山本哲也、清重隆彦
    理事官
中谷啓二

    受審人
A 職名:第六拾八宝来丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船首船底部に亀裂を伴う凹損

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航防止の措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月17日04時50分
鳴門海峡
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第六拾八宝来丸
総トン数 499トン
全長 71.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット
3 事実の経過
第六拾八宝来丸(以下「宝来丸」という。)は、船尾船橋型の貨物船兼砂利・石材運搬船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか4人が乗り組み、石材1,770トンを載せ、船首3.70メートル船尾5.00メートルの喫水をもって、平成8年10月17日02時35分兵庫県家島諸島坊勢島沖の錨地を発し、徳島県阿南市椿泊に向かった。
A受審人は、発航時刻を鳴門海峡の潮流模様と揚地入港予定時刻とを勘案して決め、また、航海時借が往復約8時間の短時間であったことから、船橋当直を、自らを含めて一等航海士及び甲板員2人の4人による1時間30分交替の単独当直制とし、発航操船を自ら行ったのち、02時45分ごろ家島諸島の狭い海域を出たところで次直の一等航海士に船橋当直を委ねて降橋した。
ところで、宝来丸は、前日16日も同じく02時30分ごろ坊勢島沖を出航して椿泊で揚荷ののち、昼ごろ同地を発し、16時30分家島諸島の男鹿(たんが)島に戻って石材の積荷をしたうえ、19時30分坊勢島沖に錨泊した。その後A受審人ほか乗組員は、伝馬船で坊勢島のそれぞれの自宅に帰って休息をとったが、B指定海難関係人は、帰宅後に知人の通夜に出席し、自宅に戻ったのが翌17日00時30分ごろで、同島沖発航時には睡眠不足の状態となっていた。
A受審人は、降橋の際、鳴門海峡北口に接近するころに入直予定のB指定海難関係人が、通夜に出て睡眠が十分にとれていない状態であることを承知していたが、年長者であるうえ長年の単独船橋当直の経験があるので大丈夫と思い、同人の当直時刻に合わせて自らも昇橋して2人で当直を行うか、あるいは、同人に対して眠気を催した際には報告するよう指示するなどの、居眠り運航防止の措置をとることなく、自室に戻り、同海峡最狭部で操船の指揮をとるつもりで、目覚まし時計をかけて休息した。
04時10分B指定海難関係人は、孫埼灯台から345度(真方位、以下同じ。)7.6海里の地点において昇橋し、針路が自動操舵で鳴門悔峡の孫埼付近に向首する167度に設定されていたので、機関を引き続き全速力前進にかけ、操舵輪のすぐ後方に置かれたいすに腰掛けて当直に当たり、11.7ノットの対地速力で進行した。
04時34分B指定海難関係人は、左舷正横に丸山港西防波堤灯台の灯火が並んだことから、いつものとおり操舵を遠隔手動に切り換えたところ、そのころから睡眠不足のため眠気を催してきたが、A受審人が鳴門海峡最狭部通過の折はいつも昇橋してくるので、それまで居眠りすることはないと思い、このことを同人に報告しないまま、引き続きいすに腰掛けて操舵に当たっていたところ、いつしか居眠りに陥った。
宝来丸は、その後鳴門海峡の最狭部に向けて針路が転じられないまま、孫埼の北岸に向け原針路、原速力で続航し、04時50分孫埼灯台から253度450メートルの海岸に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
A受審人は、目覚まし時計で起床し、服を着替えていたときに衝撃を感じ、急ぎ昇橋して本件の発生を知り、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、船首船底部に亀裂(きれつ)を伴う凹損を生じたが、救助船の来援を得て離礁し、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、鳴門海峡に向けて南下中、居眠り運航防止の措置が不十分で、同海峡西側の孫埼に向首したまま進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が、睡眠不足の状態にあった無資格の甲板員を単独の船橋当直に就かせるにあたり、自らも昇橋して2人で船橋当直を行わなかったばかりか、同甲板員に対し、眠気を催した際の報告を指示しなかったことと、同人が眠気を催した際、船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、家島諸島坊勢島から鳴門海峡を経て徳島県椿泊へ往復の航海をするため、4人による1時間30分交替の単独船橋当直を行うよう定めた場合、同海峡に接近するころに入直予定であった無資格の甲板員が、前夜、私用のため自宅で十分な休息がとれず、睡眠不足の状態であることを承知していたのであるから、自ら早めに昇橋し、2人で船橋当直を行うなど、居眠り運航防止の措置をとるべき注意義務があった。しかるに、A受審人は、同甲板員が年長者であるうえ長年の単独船橋当直の経験があるから大丈夫と思い、2人で船橋当直を行うなど、居眠り運航防止の措置をとらなかった職務上の過失により、同当直者が居眠りし、孫埼の海岸に向首したまま進行して乗り揚げ、船首船底部に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、鳴門海峡北口において、単独で船橋当直中に眠気を催した際、船長に報告しなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、同人が居眠り運航の防止について十分に反省している点に徴し、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






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