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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年11月22日06時00分 長崎県平戸島南岸 2 船舶の要目 船種船名
漁船海勇丸 総トン数 9.1トン 全長 18.05メートル 機関の種類
ディーゼル機関 漁船法馬力数 90 3 事実の経過 海勇丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人か同人の妻と2人で乗り組み、長崎県福良漁港に帰る目的で、船首0.55メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、平成9年11月22日05時00分同県相浦港を発し、福良漁港に向かった。 ところで、A受審人は、同月20日夕刻から壱岐島西方沖合の漁場で操業を始め、翌21日未明に漁獲物約850キログラムを獲て操業を終え、いったん福良漁港に寄せて漁獲物の箱詰作業を行ったのち、水揚げのため相浦港に向けて福良漁港を出港し、同日15時30分ごろ相浦港に入港し、買物などの所用を済ませたが知人の訪問を受けて十分な休息を取ることができず、22時ごろやっと床に就き、翌々22日02時ごろ起床して競りの準備にかかり、競りを終えて直ちに出港したもので、睡眠がやや不足した状態にあった。 発航後、A受審人は、通常の航行中は、夜間においても操舵室天井に設けた天窓から首を出して周囲の見張りを行っていたものの、折から小雨模様であったところから同窓を閉め、そのうえ操舵室後方の出入口も閉めたまま、背もたれ付きの椅子に座って船橋当直にあたった。 05時18分少し過ぎA受審人は、妻を操舵室下方の船室で休息させ、閉めきった操舵室で単独の船橋当直にあたり、黒島港沖防波堤灯台から075.5度(真方位、以下同じ。)2.9海里の地点において、針路を272度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、風潮流の影響で3度ばかり右方に圧流されながら、14.5ノットの対地速力で進行した。 05時36分ごろA受審人は、黒島と伊島の間を抜けて沖曾根付近に差しかかったとき、広い海域に出たこともあって気が緩み、睡眠不足でもあったところから、眠気を催すようになったが、あと1時間足らずで福良漁港に着くので、それまでは居眠りすることはあるまいと思い、椅子から立って見張りを行うとか、休息中の妻を起こして2人で当直にあたるとかするなど居眠り運航の防止措置をとることなく、やがて居眠りに陥った。 海勇丸は、A受審人が居眠りしたまま進行中、06時00分志々伎山347メートル頂から107度1,200メートルの平戸島南岸に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は雨で風力3の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、日出は06時56分であった。 乗揚の結果、船首船底破口及び推進器翼脱落などの損傷を生じたが、手配した僚船によって引き降ろされ、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、長崎県平戸島東方から同島志々伎埼沖合に向けて西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、平戸島南岸に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、長崎県平戸島東方から同島志々伎埼沖合に向けて西行中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、椅子から立って見張りを行うとか、休息中の妻を起こして2人で船橋当直にあたるとかするなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、目的地に着くまであと1時間足らずだから、それまでは居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥ったまま航行を続けて平戸島南岸に乗り揚げ、船首船底外板に破口などを生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |