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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年6月23日03時10分 沖縄県粟国島北西岸 2 船舶の要目 船種船名
漁船第三入潮丸 総トン数 19トン 登録長 18.45メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 382キロワット 3 事実の経過 第三入潮丸(以下「入潮丸」という。)は、あまだい延(はえ)縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか4人が乗り組み、船首1.2メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成8年6月13日14時00分長崎県長崎漁港を発し、沖縄島北西方120海里付近の漁場に至って、あまだい、れんこだい等約1.5トンを漁獲し、越えて同月22日16時00分北緯27度50分東経126度15分の地点を発進し、水揚げの目的で、沖縄県那覇港へ向かった。 ところで、A受審人は、船橋当直を同人も含めた全員で行う単独の2時間交替制とし、発進時から2時間を自ら受け持つことにしていたけれども、自分以外は無資格者であったことから、当直時間以外も適宜昇橋するようにしており、平素不安を感じたときには知らせるよう指導していた。 また、B指定海難関係人は、5年ほど前から入潮丸に甲板員として乗り組み、時々船橋当直に従事していたものの、夜間、島嶼(しょ)付近を航行するとき1人で当直に就いたことがなかった。 こうして、A受審人は、当直が終了した18時00分以降も引き続き在橋し、23時00分粟国島灯台から320度(真方位、以下同じ。)34.1海里の地点において、針路を135度に定め、機関を毎分回転数1,600にかけ、8.1ノットの対地速力で、自動操舵により進行していたとき、4時間後には粟国島に接近することを予想し、同島を航過する前に再び昇橋することとして休息することにしたが、眠っていても自分で起きることができると思い、知らせる時刻を指示することなく、当直者に任せて降橋した。 翌23日02時00分B指定海難関係人は、粟国島灯台から325度10海里の地点で、当直のため昇橋し、前直者から特段の引き継ぎも伝えられず、その後船橋右舷側のいすに座って当直に当たり、折からの海潮流で4度ばかり右へ圧流され、粟国島に向首する状況のまま進行した。 02時40分B指定海難関係人は、右舷船首方に灯火を認め、その後船舶の明かりと違う様子から不安を感じたが、A受審人に報告せず、引き続き目視による見張りを続け、入潮丸は、レーダーやGPSなどによる船位の確認が行われないまま粟国島に接近し、03時10分粟国島灯台から024度2,000メートルの地点において、原針路、原速力で同島北西岸に乗り揚げた。 A受審人は、睡眠中、衝撃で目覚め、急ぎ昇橋して乗揚を知り、事後の措置に当たった。 当時、天候は曇で風力2の南風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。 乗揚の結果、船底外板の凹損及び両舷ビルジキールの破損を生じ、連絡を受けた僚船により引き降ろされ、のち修理された。 (原因) 本件乗揚は、夜間、那覇港北西方沖合において、粟国島付近へ向け航行中、船位の確認が不十分で、同島へ向首する針路のまま進行したことによって発生したものである。 運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の乗組員に船橋当直を任せて休息する際、船橋当直者に対し、知らせる時刻を指示しなかったことと、当直者が、灯火を視認して不安を感じた際、船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、夜間、粟国島付近へ向け航行中、無資格の乗組員に船橋当直を任せて休息する場合、同島手前で昇橋することとしていたのであるから、船橋当直者に対し、知らせる時刻を指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、自分で起きて昇橋できると思い、知らせる時刻を指示しなかった職務上の過失により、昇橋する時機を失し、船位を確認できないまま粟国島に向首した針路で進行して乗揚を招き、船底外板の凹損等を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、夜間、船橋当直中、灯火を視認して不安を感じた際、船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、船橋当直中に不安を感じたとき、船長へ報告することの重要性について反省している点に徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。 |