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1998年(平成10年)

平成10年那審第6号
    件名
旅客船クィーンざまみ乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年9月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

小金沢重充、東晴二、井上卓
    理事官
道前洋志

    受審人
A 職名:クィーンざまみ船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
両舷プロペラに亀裂を伴う曲損、舵頭材とプロペラ軸に曲損、船尾船底に亀裂を伴う損傷

    原因
針路選定不適切

    主文
本件乗揚は、針路の選定が不適切であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年12月27日10時40分
沖縄県慶良間海峡
2 船舶の要目
船種船名 旅客船クィーンざまみ
総トン数 107トン
全長 33.15メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,647キロワット
3 事実の経過
クィーンざまみは、沖縄県の座間味村が船舶所有者から借り入れた軽合金製旅客船で、那覇港と同県慶良間列島の座間味港及び阿嘉漁港との各港間で定期運行されていたところ、A受審人ほか3人が乗り組み、平成9年12月27日09時03分那覇港を発航し、座間味港に寄港したのち、同10時23分阿嘉漁港に至り、旅客112人を乗せ、船首0.8メートル船尾1.9メートルの喫水をもって、同時30分同漁港を発し、那覇港へ向かった。
ところで、阿嘉漁港から那覇港へ向かう際の渡嘉敷島を航過するまでの基準経路として、気象状況によって使い分けることにしていた2通りが設定され、一つは同漁港防波堤南方至近の基準経路始点から安室島南方0.2海里ばかりの地点に向けて東行したのち、渡嘉敷島北方に向けて慶良間海峡を北上する第1基準経路で、平素はこの経路によっており、他の一つは基準経路始点から慶留間島とその東方にある岩礁名瀬との間を経由し、渡嘉敷島南方に向けて南下する第2基準経路で、北ないし北東の風が強いときに船長の判断で航行するようにしていた経路であった。
また、A受審人は、前示の定期運行航路の航行経験が豊富で、海図を十分に調べていたことから、安室島南岸から南方0.7海里のところに名瀬と称する数個の岩礁が南北に連なっていることも、同岩礁から東方0.3海里ばかりにある暗礁と渡嘉敷島西岸との間の可航幅は約1海里であることも十分承知し、基準経路以外の水路を航行することはほとんどなかった。
離岸後、A受審人は、視界がよいことからレーダー電源を切とし、第1基準経路を航行することにして操船にあたり、10時33分座間味平瀬灯標から257度(真方位、以下同じ。)2.2海里の基準経路始点に達したとき、針路を081度に定め、徐々に増速しながら手動操舵により進行した。
10時38分少し過ぎ、A受審人は、座間味平瀬灯標から250度1,400メートルの地点で27.5ノットの対地速力になったとき、渡嘉敷島北端付近の海岸に打ち寄せる白波を見て北東風が強くなったことを認め、急遽(きょ)名瀬を右舷に見て慶良間海峡を南下する基準経路以外の水路を航行したうえで第2基準経路に入ることにしたが、同海峡のほぼ中央に向かうよう、渡嘉敷島西岸及び名瀬の岩礁を見比べるなり、コンパスにより126度の針路とするなりの適切な針路を選定することなく、早めに第2基準経路に入ろうと思い、小刻みな右転を繰り返して続航した。
こうするうち、クィーンざまみは、慶良間海峡西側の名瀬の東方に存在する暗礁に著しく接近する状況となり、10時40分座間味平瀬灯標から199度1,600メートルの地点において、同暗礁東端に、原速力のまま176度を向いて船尾船底を乗り揚げ、擦過した。
当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果、両舷プロペラに亀(き)裂を伴う曲損を、舵頭材とプロペラ軸に曲損を、船尾船底に亀裂を伴う損傷をそれぞれ生じ、自力で阿嘉漁港に戻り、遊漁船等に旅客を移乗させ、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、沖縄県慶良間列島安室島南方沖合において、急遽慶良間海峡を南下することとなった際、針路の選定が不適切で、同海峡西側の名瀬の東方に存在する暗礁に著しく接近する状況のまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、安室島南方沖合において、急遽慶良間海峡を南下することとした場合、同海峡西側には岩礁及び暗礁が存在し、かつ航行経験のほとんどない水路であったのであるから、同海峡のほぼ中央に向かう適切な針路とすべき注意義務があった。しかるに、同人は、早めに基準経路に入ろうと思い、適切な針路としなかった職務上の過失により、小刻みな右転を繰り返し暗礁に著しく接近して乗揚を招き、船尾船底に亀裂を伴う損傷を両舷プロペラに亀裂を伴う曲損を、舵頭材とプロペラ軸に曲損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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