日本財団 図書館




1998年(平成10年)

平成10年那審第8号
    件名
旅客船第五十八あんえい号乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年9月1日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

小金沢重充、東晴二、井上卓
    理事官
阿部能正

    受審人
A 職名:第五十八あんえい号船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
推進器翼が曲損

    原因
操船不適切(視界の回復を待たないまま進行)

    主文
本件乗揚は、船位を確認できなくなった際の運航が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年8月1日18時50分
沖縄県八重山列島小浜島北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 旅客船第五十八あんえい号
総トン数 19トン
全長 19.79メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,182キロワット
3 事実の経過
第五十八あんえい号は、沖縄県八重山列島の船浦港と石垣港との間で定時運航される軽合金製旅客船で、A受審人ほか1人が乗り組み、旅客45人を乗せ、船首0.85メートル船尾1.75メートルの喫水をもって、平成9年8月1日18時20分船浦港を発し、石垣港へ向かった。
A受審人は、発航時から操船に当たり、18時27分少し前鳩間島灯台から146度(真方位、以下同じ。)4.0海里の地点で、針路を107度に定め、機関を毎分回転数1,800にかけ、30.0ノットの対地速力で、操舵に当たって進行した。
ところで、A受審人は、船浦、石垣両港間の航路航行の経験が豊富で、107度の針路では両港間の石垣港寄りのところに存在する東西に長い干出さんご礁に次第に接近することとなるが、平素、視界が良く昼間であれば、同さんご礁の外縁に接近すると、波立ち或いは海水色の変化により干出さんご礁を確認できたことから、適宜針路を変えながら同さんご礁を離して進行するようにしていた。
18時33分少し前A受審人は、鳩間島灯台から130度6.6海里の地点に差し掛かったころ、雨により視界が制限される状況となったことから、速力を25.0ノットに減じ、船位を確認しようと、レーダーを調整していたところ、同時40分ごろ雨足が激しくなり、レーダー画面が真っ白となって干出さんこ礁の外縁も島も識別できず、船位を確認できなくなったが、夏特有の驟雨(しゅう)だろうからすぐに小降りになると思い、大幅に減速して視界の回復を待つなど適切な運航を行うことなく、同じ針路、速力のまま進行し、定針時刻からの経過時間によって前示の干出さんご礁が近くなる時刻を知り得たが、依然視界がすぐに回復すると思いながら続航中、同時50分わずか前右舷側至近に海水の変色を認め、直ちに左舵をとって、主機クラッチを中立としたが、間に合わず、18時50分琉球観音埼灯台から269.5度4.0海里の地点において、第五十八あんえい号は原針路、原速力のまま干出さんご礁に乗り揚げ、擦過した。
当時、天候は雨で風力2の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
乗揚の結果、推進器翼が曲損したが、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、沖縄県八重山列島の小浜島北方沖合を石垣港へ向けて東行中、驟雨で視界が著しく制限され、レーダーによっても船位を確認できなくなった際、運航が不適切で、大幅に減速して視界の回復を待たないまま進行し、干出さんご礁に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、沖縄県石垣港へ向け東行中、驟雨で視界が著しく制限され、レーダーによっても船位を確認できなくなった場合、干出さんご礁に接近する針路としていたのであるから、大幅に減速して視界の回復を待つべき注意義務があった。しかるに、同人は、雨はすぐに小降りになると思い、大幅に減速して視界の回復を待たなかった職務上の過失により、同さんご礁に著しく接近して乗揚を招き、推進器翼に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION