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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年4月12日16時53分 山口県奈古漁港付近 2 船舶の要目 船種船名
漁船真祐丸 総トン数 6.6トン 登録長 11.99メートル 機関の種類
ディーゼル機関 漁船法馬力数 90 3 事実の経過 真祐丸は、FRP製小型遊漁兼用漁船で、A受審人が1人で乗り組み、甥(おい)1人を乗せ、端午の節句の鯉幟(こいのぼり)用に径約15センチメートルで長さ約13メートルの檜(ひのき)の丸太を2本積み、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成9年4月12日09時00分山口県奈古漁港を発し、9海里ばかり西方の三見漁港に向かった。 A受審人は、09時30分三見漁港に着き、丸太を下ろして姉の家にトラックで運び、そこで幟柱を立てる作業を手伝い、昼食時大人3人でビールを3本ほどごちそうになり、16時20分義弟と甥の2人を乗せ、奈古漁港への帰港の途についた。 A受審人は、出港後、甥を船首のキャビンで休ませ、義弟を操舵室後部の長椅子(いす)に腰掛けさせ、自分は操舵室右舷寄りに置かれた椅子に腰掛けて1人で操舵操船にあたり、船首が浮上して前方に見張りの死角が全面的に生じていたので、専らレーダーを監視しての見張りを続けているうち、16時39分虎ケ埼灯台から319度(真方位、以下同じ。)900メートルの地点に達したとき、針路を049度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて17.0ノットの対地速力で進行した。 16時46分A受審人は、萩大島港赤穂瀬南防波堤灯台から112度900メートルの地点に達したので、奈古漁港入口の前面に位置する女鹿島の南沖合に向かって徐々に右転することとし、まず自動操舵のまま063度に転針して進行したところ、前日親類の者と夜遅くまで飲み交わしたことと、昼食時のビールの影響とで眠気を覚えたが、目的地まであとわずかで、いつも一人で操舵操船をしていることなので、少しの間我慢すればよいと思い、手動操舵に切り換えて眠気を払うなど、居眠り防止の措置をとらずにレーダー監視を続けているうち、いつしか居眠りに陥り、奈古漁港北方の岩礁が張り出た海岸に向首していたが、これに気づかず続航し、16時53分奈古港防波堤灯台から309度650メートルの海岸の岩礁に原針路・原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。 乗揚の結果、プロペラ及び舵に曲損並びに船首船底に破口が生じたほか、船尾船底に亀(き)裂を生じて浸水し、岩礁に乗り揚げたまま速やかに自力離礁できなかったが、翌13日上げ潮時自然に離礁し、僚船に横抱きにされて帰港し、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、山口県三見漁港から奈古漁港へ航行した際、居眠り運航の防止措置が不十分で、奈古漁港北方の岩礁の張り出た海岸に向首して進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、単独で自動操舵により航行しているうち、眠気を覚えた場合、前日夜遅くまで飲み交わしたのちの疲労と、当日昼食時のビールなどで緊張が緩む状況にあったから、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、少しの間我慢すればよいと思い、手動操舵に切り換えて眠気を払うなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、いつしか居眠りに陥り、海岸の岩礁に向首進行して乗り揚げ、プロペラ及び舵に曲損を生じたほか、船首船底及び船尾船底に破口を伴う亀裂を生じ、浸水させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |