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1998年(平成10年)

平成9年那審第53号
    件名
漁船宝洋丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年7月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

小金沢重充、東晴二、井上卓
    理事官
道前洋志

    受審人
A 職名:宝洋丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
ビルジキール、舵板、プロペラ、プロペラシャフト等に曲損、船底に亀裂を伴う損傷

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運行の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月29日01時00分
鹿児島県奄美大島大山埼付近
2 船舶の要目
船種船名 漁船宝洋丸
総トン数 6.15トン
全長 13.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 33キロワット
3 事実の経過
宝洋丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船であり、A受審人が1人で乗り組み、きはだまぐろ漁の目的で、平成9年5月26日12時00分船首0.4メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、鹿児島県名瀬港を発し、同港西方46海里ばかりのところに設置された浮魚礁の周辺海域に至って漂泊し、翌27日の日出時ごろから同海域において立て縄による操業を日没まで行ったのち再び漂泊した。
A受審人は、翌々28日の日出時から再び操業を開始して、夕方までの2日間の操業においてきはだまぐろ約500キログラムを漁獲したところで、気象ファックスにより台風が接近していることを知り、操業を切り上げて帰途に就いた。
18時30分A受審人は、北緯28度15分東経128度38分の地点に達したとき、針路を081度(真方位、以下同じ。)に定め、機関を毎分回転数1,000の微速力前進にかけ、5.8ノットの対地速力で、自動操舵により進行した。
23時09分少し過ぎ、A受審人は、曽津高埼灯台から355度4.4海里の地点に達したとき、13時間余りの操業に引き続いての長時間当直がもたらす疲労感を覚え、かつ睡眠不足の状況であったが、居眠りすることはないと思い、速やかに最寄りの適所に仮泊するなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、いすに腰掛けて背後の壁に寄り掛かっているうち、いつしか居眠りに陥り、大山埼付近の海岸に向首したまま続航中、翌29日01時00分大山埼灯台から228度0.9海里の地点において、宝洋丸は、原針路、原速力のまま大山埼西側の海岸に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力3の南東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
乗揚の結果、ビルジキール、舵板、プロペラ、プロペラシャフト等に曲損を、船底に亀裂(きれつ)を伴う損傷をそれぞれ生じ、連絡を受けた僚船により引き降ろされ、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、沖合漁場から鹿児島県名瀬港へ向け帰航中、居眠り運航の防止措置が不十分で、奄美大島大山埼付近の海岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、名瀬港へ向け帰航中、長時間の操業に続いての当直がもたらす疲労感を覚え、かつ睡眠不足の状況であった場合、居眠りするおそれがあったから、速やかに最寄りの適所に仮泊するなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、居眠りすることはないと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥ったまま進行して乗揚を招き、ビルジキール、舵板、プロペラ、プロペラシャフト等に曲損を、船底に亀裂を伴う損傷をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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