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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成10年1月11日16時30分 鹿児島県徳之島北岸 2 船舶の要目 船種船名
漁船第一幸吉丸 総トン数 4.9トン 全長 11.30メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 279キロワット 3 事実の経過 第一幸吉丸(以下「幸吉丸」という。)は、潜水器漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか甲板員2人が乗り組み、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成10年1月9日09時30分沖縄県浦添市牧港漁港を出港し、鹿児島県硫黄鳥島付近に至って夜間操業を繰り返し、翌々11日早朝それまでの漁獲がぶだい200キログラムとなったとき、夕刻から操業を再開する予定で硫黄鳥島東側で錨舶したが、その後低気圧の接近による荒天が予想されたことから避難するため、11時00分錨泊地点を発し、鹿児島県徳之島北側経由で同島山漁港に向かった。 A受審人は、錨舶地点発航後甲板員に当直を任せて休息し、15時30分与名間埼灯台から284度(真方位、以下同じ。)3.5海里の地点に達したとき、もう1人の甲板員から当直を引き継ぎ、そのころ寒冷前線の通過に伴って南西風が強い北西風に変わり、激しい雨となり、波も高くなった状況の下、圧流を考慮して与名間埼北側海岸を1海里離す077度に針路を定め、機関を発航時からと同様の半速力前進に掛けて6.5ノットの対地速力で、自動操舵により当直に当たり、10度ばかり右偏されながら進行した。 ところで、A受審人は、硫黄鳥島付近における2回の夜間操業に従事し、11日朝操業終了後と錨泊地点発航後とそれぞれ約2時間睡眠がとれただけで、かぜをひいていたことも加わり、当直を引き継いだとき、疲労し、睡眠が不足した状態であった。 A受審人は、いすに腰掛けて当直に当たるうち、疲労と睡眠不足により眠気を感じるようになったが、なんとか1人で当直を続けることができると思い、休息中の甲板員を呼んで2人当直とするなどの居眠り運航防止の措置をとることなく続航した。 16時07分A受審人は、与名間埼灯台から033度1.2海里の地点に達し、与名間埼北側海岸地先のさんご礁外縁を右舷方200メートルで通過したのを知り、同針路で金見埼に達したならば転針するつもりで、なおもいすに腰掛けていたところ、間もなく居眠りし始めた。 こうして幸吉丸は、海潮流と増勢する北西方からの風波により大幅に圧流され、徳之島北側海岸に著しく接近する状況となっていたが、同針路、同速力で進行中、16時30分金見埼灯台から292度1,600メートルの地点において、海岸から拡延したさんご礁の浅所に乗り揚げ、擦過した。 当時、天候は雨で風力7の北西風が吹き、同方向からの高い波があり、潮候は上げ潮の末期であった。 A受審人は、乗揚の衝撃で目覚め、手動操舵に切り換えて左舵一杯とし、機関を全速力前進としたが、船体は波に運ばれて再び乗り揚げ、行きあしが停止した。 乗揚の結果、幸吉丸は、離礁の手段がないまま時が経過するうち全損となり、A受審人ほか2人は、陸上に逃れて無事であった。
(原因) 本件乗揚は、鹿児島県硫黄鳥島東側の錨泊地点から荒天避難のため同県徳之島北側経由で同島山漁港に向かって航行中、居眠り運航防止の措置が不十分で、徳之島北側海岸に著しく接近する状況のまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、鹿児島県硫黄鳥島東側の錨泊地点から荒天避難のため同県徳之島北側経由で同島山漁港に向かって航行中、疲労し、かつ睡眠が不足した状態で1人当直に当たり、眠気を感じた場合、休息中の甲板員を呼んで2人当直を行うなど居眠り運航防止の措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、なんとか1人で当直を続けられると思い、居眠り運航防止の措置をとらなかった職務上の過失により、いすに腰掛けていたところ居眠りし、徳之島北側海岸に著しく接近する状況のまま進行して乗揚を招き、全損に至らしめた。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。 |