|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年6月15日23時30分 備讃瀬戸 柏島西岸 2 船舶の要目 船種船名
貨物船大和丸 総トン数 199.74トン 登録長 51.31メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 478キロワット 3 事実の経過 大和丸は、専ら鋼材の運送に従事する鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、マンガン鉄約602トンを積載し、船首2.5メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成8年6月15日22時00分水島港を発し、名古屋港に向かった。 A受審人は、出港操船に引き続き当直に立ち、水島航路から下津井瀬戸を抜け、22時45分久須見鼻灯標から090度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点に達し、竪場島灯浮標を左舷側200メートルに並航したとき、針路を089度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に乗じて10.0ノットの対地速力で進行した。 23時22分A受審人は、爼石(まないたいし)灯標から153度1.1海里の地点に達し、6海里レンジとしたレーダーで柏島西岸を左舷船首20度1.4海里に捉え、まもなく宇高東航路を横切り備讃瀬戸東航路に入ることから操舵を手動に切り替えたとき、宇高東航路第3号灯浮標の灯火を右舷船首45度に認め、これが比較的近く見えたことから、同灯浮標との航過距離を広げようとコンパスで船首方位を見ないまま左転したところ、068度の針路となって柏島に向首し、同時22分半爼石灯標から149度1.1海里の地点で、前示灯浮標を右舷側200メートルに並航したが、このままの針路でも備讃瀬戸東航路に入ることができるものと思い、レーダー及びコンパスを確認して元の針路に戻すなど、適正な針路を選定することなく、同針路のまま続航した。 23時27分A受審人は、爼石灯標から118度1.5海里の地点に至ったころ、転針前からの尿意を我慢できなくなり、正船首900メートルに接近した柏島に向首進行していることに気付かないまま、便所に行く間もなく舵輪中央として船橋左舷側で放尿中、同時30分わずか前ふと船首方を見ると至近に明かりらしきものを認め、あわてて操舵室に戻り左舵一杯としたが及ばず、23時30分大和丸は、爼石灯標から106度1.8海里の柏島西岸に、ほぼ原針路、原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候はほぼ高潮時で、付近には1ノットの東流があった。 乗揚の結果、船底外板全般にわたり破口や亀(き)裂を伴う凹傷を生じ、プロペラを曲損したが、来援したサルベージ船に引き下ろされ、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、備讃瀬戸を東行中、針路の選定が不適切で、柏島西岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、単独で船橋当直に就いて備讃瀬戸を東行中、灯浮標との航過距離を広げるため転針し、その後備讃瀬戸東航路に向かう場合、柏島に乗り揚げることのないよう、レーダー及びコンパスを確認するなどして、適切な針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、転針した針路で備讃瀬戸東航路に入ることができるものと思い、適切な針路を選定しなかった職務上の過失により、柏島西岸に向首したまま進行して乗揚を招き、大和丸の船底外板全体にわたって破口や亀裂をともなう凹傷を生じさせ、プロペラを曲損せしめるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |