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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年5月13日05時35分 島根県浜田港沖合 2 船舶の要目 船種船名
漁船千弘丸 総トン数 8.29トン 登録長 13.45メートル 機関の種類
ディーゼル機関 漁船法馬力数 110 3 事実の経過 千弘丸は、いか1本釣りに従事する、船体中央よりやや船尾方に操舵室を有するFRP製漁船で、A受審人が1人で乗り組み、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成9年5月12日15時島根県浜田港を発し、夜間の、いか操業の目的で、同港西南西方約10海里沖合の同県高島南方の漁場に向かった。 A受審人は、16時ごろ漁場に着き、日没を待っていか1本釣りを開始し、翌13日04時35分浜田港シャックリ灯標(以下「シャックリ灯標」という。)から243度(真方位、以下同じ。)9.7海里の地点で、いか約4キログラムを漁獲したところで操業を中止し、航行中の動力船の灯火を掲げ、針路をシャックリ灯標に向首する063度に定め、当時、自動操舵装置が故障して使用できなかったことから、操舵を手動とし、機関を全速力前進にかけて10.0ノットの速力で進行した。 A受審人は、05時09分シャックリ灯標から243度4.6海里の地点に達したとき、針路を同灯標の南方約830メートルのところにある本土側の赤島鼻にほぼ向首する069度に転じ、その後同島の北側約40メートルの転針点で右転して浜田港入口に向けるつもりで続航した。 05時33分少し前A受審人は、シャックリ灯標から212度1,130メートルの、前示転針点の手前約430メートルの地点に差し掛かったころ、船首方の転針点付近一帯にかけて十数隻の漁船が点在するのを認め、機関を6.0ノットの半速力前進にかけて進行したが、赤島鼻至近の水深は急浅となっており、北寄りの風が吹くときには周辺に磯波が形成され、その影響で付近海域では保針が不安定となることのあるところであった。 05時34分半A受審人は、シャックリ灯標から196度870メートルの地点に達し、間もなく転針点に差し掛かろうとしたとき、左舷方に点在する前示漁船の灯火を眺めようと、舵を中央として操舵輪から離れ、左舷方の窓に向かったが、自船の操舵装置は油圧駆動だから、わずかの間操舵輪から手を離しても船体は直進するものと思い、保針に十分配慮することなく続航し、磯波の影響によって船首が右転し始めたものの、左舷方を見ていたことから、このことに気付かなかった。 05時35分少し前A受審人は、操舵輪のところに戻ろうと、ふと前方を見たとき船首至近に島影を認めて、機関を全速力後進としたが効なく、千弘丸は05時35分浜田港シャックリ灯標から192度820メートルの浅所に、195度に向首したとき、原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は雨で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。 乗揚の結果、船首船底部に破口を生じたが自力で離礁し、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、いか1本釣り操業を終え、浜田港に向け帰航中、磯波の形成される同港西方の赤島鼻北側に接航して東航するにあたり、保針が不十分で、右転して赤島鼻の浅所に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、いか1本釣り操業を終え、浜田港に向け帰航中、同港西方の赤島鼻北側に接航して東航する場合、同北側附近海域は急浅となって磯波が形成される場所であったから、磯波の影響により船首が右転して陸岸に接近することのないよう、保針に十分配慮すべき注意義務があった。しかるに同人は、自船の操舵装置は油圧駆動だから、わずかの間操舵輪から手を離しても、船体は直進するものと思い、保針に十分配慮しなかった職務上の過失により、船首が右転して乗揚を招き、船首船底部に破口を生じさせるに至った。 |