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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年6月15日10時10分 大韓民国トンヨン海湾ソヒョル島 2 船舶の要目 船種船名
漁船第一字和海 総トン数 198トン 全長 46.85メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 735キロワット 3 事実の経過 第一宇和海(以下「宇和海」という。)は、船尾船橋型の活魚運搬船で、A受審人ほか5人が乗り組み、活魚15トンを載せ、船首2.9メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、平成8年6月14日11時50分愛媛県石応(こくぼ)漁港を発し、大韓民国トンヨン海湾湾奥のトンヨン港に向かった。 ところで、トンヨン海湾は、朝鮮半島南岸にあって南北約7海里、東西1ないし2海里にわたり、大小の島に囲まれた湾で、これら東西の島近く及び同海湾の中央部付近にそれぞれ多数の養殖筏(いかだ)が設置され、中央部の養殖筏と西側のミレグ島近くの養殖筏との間(以下「西水路」という。)は幅70ないし100メートル、中央部の養殖筏と東側のハンサン島近くの養殖筏との間(以下「東水路」という。)は幅約50メートルのそれぞれ通航可能な水路となっており、A受審人は、同海湾を15回ほど通航した経験があり、これらの水路状況についてよく知っていた。 A受審人は、翌15日09時ソジ島南西方2海里の地点で、トンヨン海湾通航及びトンヨン港入港のため船橋当直を交替し、自ら見張りと操舵にあたり、同時31分オゴク島灯台から149度(真方位、以下同じ。)1.1海里のトンヨン海湾湾口の地点に達したとき、霧により視程が100メートルに狭められ、通航予定としていた西水路に多数の漁船を認めたので、東水路を通航してトンヨン港に向かうこととし、針路を015度に定め、機関を半速力前進にかけ、7.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 09時56分A受審人は、カクス礁立標を右舷正横に見る、オゴク島灯台から036度2.2海里の地点に達したとき、針路を東水路に向く005度に転じ、このころ視程が50メートルとなり、レーダーを1.5海里レンジに切り替えて船位を確認しながら続航した。 10時07分半A受審人は、オゴク島灯台から025度3.5海里の地点で、ソヒョル島の南南西方約0.2海里にある灯浮標をレーダーで右舷方に認めてこれを航過したとき、右舷船首方に漁船のレーダー映像を認め、同船を避航することとしたが、右転するとソヒョル島近くの浅所に著しく接近する状況であったものの、同船を避航することに気を取られ、機関を使用して行きあしを止めるなど避航措置をとることなく、右舵をとって針路を025度に転じた。 こうしてA受審人は、同浅所に著しく接近する針路のまま進行し、同漁船と航過して針路を元に戻したとき、宇和海は、10時10分オゴク島灯台から025度3.7海里の浅所に、原針路、原速力のまま乗り揚げこれを擦過した。 当時、天候は霧で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、視程は約10メートルであった。 A受審人は、船底の衝撃に気付いて直ちに投錨し、点検したのち航行に支障がなかったので目的港に向かった。 乗揚の結果、船底外板に凹損、プロペラに曲損及びキールに損傷を生じたが、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、視界制限状態の大韓民国トンヨン海湾において、東水路に向け狭い水道を北上中、船首方に漁船を認めた際、避航のための操船が不適切で、右転してソヒョル島近くの浅所に著しく接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、視界制限状態の大韓民国トンヨン海湾において、東水路に向け狭い水道を北上中、船首方に漁船を認めた場合、右転するとソヒョル島近くの浅所に著しく接近する状況にあったから、機関を使用して行きあしを止めるなどの避航措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船を避航することに気を取られ、行きあしを止めるなどの避航措置をとらなかった職務上の過失により、右転して同浅所に著しく接近してこれに乗り揚げて擦過し、船底外板に凹損、プロペラに曲損及びキールに損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |