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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年10月19日05時18分 山口県防府市雀岩 2 船舶の要目 船種船名
漁船忠宝丸 総トン数 1.4トン 全長 8.88メートル 機関の種類
ディーゼル機関 漁船法馬力数 40 3 事実の経過 忠宝丸は、山口県徳山市戸田漁港沖合海域において、定置網漁業に従事する、操舵室のないFRP製漁船で、A受審人及び同人の妻であるB受審人の2人が乗り組み、平成8年10月19日04時15分戸田漁港四郎谷地区を出航して同地区南方の赤埼沖に向かい、同時20分赤埼南東沖約100メートルに設置された定置網漁場に着き、はまち約750キログラムを捕獲し、魚市場に水揚げする目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、05時15分同漁場を発し、同県三田尻中関港に向かった。 ところで、赤埼から三田尻中関港にかけての沿岸には、その中程にある八崎岬までの間に、赤埼近くに水上岩や暗礁からなる雀岩や、その西方に水上岩の小島などがあって、赤埼沖の定置網漁場から三田尻中関港港口の三田尻灯台に直接向ける針路とすると、これらの水上岩や暗礁に乗り揚げるおそれがあったから、航行船舶は、いったん針路を南の沖合に向けてこれらの岩礁などを十分離したのち、三田尻灯台に向かう針路をとっていた。 A受審人は、発航時、甲板上の高さ0.72メートルの機関室囲壁の前にあるマストで、甲板上からの高さ2.1メートルのところに設置された白色全周灯とその下方0.6メートルにある両色灯を点灯したうえ、同マストの中程に取り付けた、左右に動く、斜め前方に張り出した桁で、甲板上の高さ1.0メートルのところに吊された、60ワットと40ワットの傘付作業灯2個のうち、40ワットの作業灯1個だけを点灯し、同囲壁の後側に立って舵棒で操船に当たり、同囲壁前部においてB受審人に魚の整理を行わせていたが、漁獲量が多くその整理が市場に着くまでに終わる見込みがないので、操船をB受審人と交代して自ら魚の整理を行うこととした。 そして、A受審人は、針路を三田尻中関港港口の三田尻灯台に直接向けると、近くの雀岩の暗礁などに乗り揚げるおそれがあったが、B受審人が長年共に乗船して操船にも当たり、水路事情に詳しいから大丈夫と思い、沖に出して同灯台を目標に行くように指示したものの、現在の船位を十分に確認し、雀岩の暗礁などを避けて進行するように指示することなく、05時16分防府市大字富海の170メートルの三角点(以下「三角点」という。)から105度(真方位、以下同じ。)1.0海里の地点で、B受審人に操船を委(ゆだ)ねて魚の整理に専念した。 B受審人は、操船を引き継いだとき、長年にわたって付近海域で操船に当たっていて周囲の水路事情に詳しく、近くに雀岩の暗礁などが存在していることを知っており、現在の位置から針路を三田尻灯台に向けると、同岩の暗礁に乗り揚げるおそれがあったが、A受審人からの指示のうち沖に出すことを聞き漏らし、同灯台の灯光を目標にして行けば大丈夫と思い、周囲の地形から現在の船位を十分確かめることなく、針路を同灯台に向かう250度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で進行した。 こうして、B受審人は、船位を確認しないまま三田尻灯台に向かって続航中、05時18分三角点から120度1,350メートルの雀岩の暗礁に、忠宝丸は、原針路、原速力で乗り揚げた。 当時、天候は曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。 A受審人は、船体の衝撃で乗り揚げたことを知り、船体の状況を船上から見て破損箇所がないものと判断し、B受審人と操船を交代し、機関を後進にかけて自力離礁した。 乗揚の結果、忠宝丸は、右舷船首部船底に破口を生じ、機関室に浸水し、救援にかけつけた付近の漁船により戸田漁港に向けて曳(えい)航されているうち、05時28分三角点から119度1,700メートルの地点で沈没し、のち、手配した起重機船により引き揚げられて、修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、山口県徳山市赤埼沖の定置網漁場から同県三田尻中関港に向けて航行中、船位の確認が不十分で、雀岩の暗礁に向かって進行したことによって発生したものである。 運航が適切でなかったのは、船長が操船を甲板員に委ねるにあたり、船位を十分に確認するよう厳重に指示しなかったことと、甲板員が、船位を確認しなかったこととによるものである。
(受審人の所為) B受審人は、夜間、山口県徳山市赤埼沖の定置網漁場から、同県三田尻中関港に向けて航行中、船長から操船を委ねられた場合、近くに存在する雀岩の暗礁などに乗り揚げるおそれがあったから、現在の船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、雀岩の暗礁などの存在を知っていたものの、船長からの沖に出して三田尻灯台を目標に行くように指示されたうち沖に出すことを聞き漏らし、三田尻灯台の灯光を目標にして行けば大丈夫と思い、現在の船位を十分に確認しなかった職務上の過失により、雀岩の暗礁に向かって進行し、忠宝丸を同暗礁に乗り揚げる事故を招き、右舷船首部船底に破口を生じさせ、浸水、沈没させるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。 A受審人は、夜間、山口県徳山市赤埼沖の定置網漁場から、同県三田尻中関港に向けて航行中、操船を甲板員に委ねる場合、近くに存在する雀岩の暗礁などに乗り揚げることのないよう、船位を十分に確認して進行するよう厳重に指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、甲板員が付近の水路状況を良く知っており、長年、操船にも従事しているので大丈夫と思い、沖に出して三田尻灯台を目標に行くように指示しただけで、船位を十分に確認して進行するよう厳重に指示しなかった職務上の過失により、甲板員が船位を確認しないで、近くの雀岩の暗礁に向かって進行し、同船に前示のとおりの損傷を生じさせ、浸水、沈没させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |