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1998年(平成10年)

平成9年神審第33号
    件名
貨物船第六旭豊丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年9月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

工藤民雄、佐和明、西林眞
    理事官
坂本公男

    受審人
A 職名:第六旭豊丸一等航海士 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船底に小破口を伴う凹損を生じて二重底に浸水

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年4月30日05時20分
淡路島北西岸
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第六旭豊丸
総トン数 379トン
全長 57.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第六旭豊丸は、船尾船橋型の引火性液体物質ばら積船兼液体化学薬品ばら積船で、平成8年4月28日21時15分ごろ神戸港外で錨泊中の外国船に接舷して三重県四日市港揚げのジフェニルメタンジイソシアネート400トンを積載し、乗組員の交替と修理用部品の積込みのため、翌29日00時20分神戸港外を発進し、06時00分岡山県日生港に入港して着岸した。そして、所用を済ませたのち、船長B及びA受審人ほか3人が乗り組み、タンク洗浄剤積込みの目的で、船首2.6メートル船尾3.9メートルの喫水をもって、翌々30日01時00分同港を発し、大阪港に向かった。
本船では、船橋当直をB船長、A受審人及び次席一等航海士の3人による単独4時間交替制とし、食事時間の関係で所定の30分ほど前に当直交替を済ますような習慣で行っており、同船長は、平素、当直者に対し、当直中に何らかの不安を覚えたときや体調が不調になったときには、必ず報告するよう指示して当直を任せていた。
03時20分A受審人は、播磨灘北部の鞍掛島灯台から162度(真方位、以下同じ。)0.9海里の地点に達したとき、船橋当直に就き、針路を104度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、8.7ノットの対地速力で播磨灘を東行した。
ところで、A受審人は、同月29日神戸港外を発航後2時間半ほど睡眠をとったのち約2時間当直に就いて日生港に入港し、その後自室で3時間ほど睡眠をとってから上陸し、夕方に帰船して船内で過ごした。そして同日21時ごろから就寝し、翌30日00時30分ごろ起床して出港配置に就き、出港後再び1時間ほど仮眠をとり、03時過ぎに起床して当直に就いたもので、当直のため昇橋したときには特に睡眠不足や疲労を感じてはいなかった。
04時40分A受審人は、カンタマ南灯浮標の西方1.7海里付近の、江埼灯台から281度6.2海里の地点で、針路を明石海峡航路西方灯浮標の南方0.2海里に向首する111度に転じ、折からの南西流により右方に約6度圧流されながら、8.2ノットの対地速力で進行した。
A受審人は、これまで明石海峡を頻繁に通峡しており、いつものとおり明石海峡航路西方灯浮標を通過したのち、左転して同海峡西口に向けるつもりで、操舵室前面窓の後方で背もたれ付きのいすに腰を掛けて見張りに当たっていた。
そして、A受審人は、明石海峡航路西方灯浮標に近づくにつれ、自船を追い越していった他船も前方に遠ざかり、慣れた海域で、珍しく周囲には気になる他船も見当たらず、折から海上も平穏で視界もよく、かつ早朝の居眠りしやすい時間帯であったうえ、細切れ睡眠であったことから、いすに長時間腰を掛けて見張りを続けると、気の緩みから居眠りに陥るおそれがあった。しかし、同人は、間もなく明石海峡西口に向けて転針しなければならず、まさか居眠りすることはないと思い、居眠り運航とならないよう、立ち上がり手動操舵に切り換えるなど居眠り運航防止の措置をとることなく、そのままいすに腰を掛け、あと5分ほどで明石海峡西口に向けて転針するころと思って続航するうち、いつしか居眠りに陥った。
こうして、第六旭豊丸は、単独の当直者が居眠りし、明石海峡航路に向けての転針地点に達したが、転針が行われないまま淡路島北西海岸に向首して進行し、05時20分江埼灯台から227度1.8海里の地点において、淡路島の海岸に原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の南東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、日出時刻は05時11分であった。
B船長は、自室で就寝中、衝撃を感じて目覚め、急いで昇橋して乗揚を知り、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、船底に小破口を伴う凹損を生じて二重底に浸水したが、来援したサルベージ船により引き降ろされ、応急修理が施されて大阪港に至って揚荷を行い、のち修理地に回航されて損傷部は修理された。

(原因)
本件乗揚は、明石海峡西口に向け播磨灘東部を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定の転針が行われず、淡路島北西岸に向首進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、単独の船橋当直に就き、早朝の播磨灘東部を明石海峡西口に向け東行する場合、慣れた海域で、周囲には気になる他船も見当たらず、海上も平穏で視界もよく、いすに長時間腰を掛けて見張りを続ければ、気の緩みから居眠りに陥るおそれがあったから、立ち上がり手動操舵に切り換えるなど居眠り運航防止の措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、間もなく明石海峡に向けて転針しなければならず、まさか居眠りすることはないものと思い、立ち上がり手動操舵に切り換えるなど居眠り運航防止の措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、予定の転針を行うことができないまま淡路島北西岸に向首進行して乗揚を招き、船底外板全般に破口や凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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