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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年5月31日01時00分 福岡県博多港 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートアルジャーノン 全長
7.16メートル 機関の種類 電気点火機関 出力 139キロワット 3 事実の経過 アルジャーノンは、船内外機を備えたFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、船首尾とも0.8メートルの等喫水をもって平成9年5月31日00時博多港西福岡マリーナの係留地を発し、港内のクルージングに向かった。 A受審人は、操舵室右舷側の舵輪の前で手動操舵にあたり、機関を10.0ノットの微速力前進にかけ、福岡市早良(さわら)区の沖合を螺旋(らせん)状に旋回しながら航行し、福岡タワーや福岡ドームの沖合に達したときは一時停止して夜景を楽しむなど、港内のクルージングを満喫した。 ところで、博多港内は、大型船のために常時12メートル以上の水深に浚渫された航路を除き、大半は水深5から6メートルの遠浅の地形を成し、福浜沖合の鵜来(うぐ)島は、海上に浮かんだ小島であったものの、周囲は岩礁で囲まれ、その周辺も四方に広く暗礁が張り出し、特に南側は水深1メートル以内の暗礁が陸地まで続き、鵜来島と陸地の間は、あたかも通り抜けることができるかのような外観を呈していた。 しかしながら、A受審人は、夜間の慣れない航海であったものの、昼間の港内航行の経験から、どの海域を通航しても支障ないものと思い、クルージングに先立ってマリーナで海図にあたるなど、博多港内の水路状況を調査しなかった。 A受審人は、早良区の沖合から中央航路に入り、同航路の防波堤入口を南下して中央埠(ふ)頭の沖合に至り、防波堤内を一周したのち、帰港の途につくこととしたが、須崎埠頭の沖合で自船の港内における位置関係を見失い、ビデオ・プロッターで確認できたものの、西防波堤南端の入口が直ぐ手前に見えたので、そこから博多湾の南の海岸線に沿って航行すれば、無事係留地までたどり着くことができると考え、同入口を通過したのち、00時59分博多港西公園下防波堤灯台から280度(真方位、以下同じ。)220メートルの地点に達したとき、針路を243度に定め、係留地に早く戻りたかったので、機関を全速力前進にかけて25.0ノットのトップスピードで進行したところ、鵜来島南側の暗礁海域に向首する状況となったが、これに気づかずに続航中、01時00分博多港西公園下防波堤灯台から251度940メートルの海図上水深0.4メートルと記された暗礁に原針路・原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の末期であった。 衝突の結果、船底に亀(き)裂を伴う擦過傷を生じたほか、ドライブ・ユニットに曲損を生じ、海上保安部に依頼して離礁され、のちマリーナ業者の支援で係留地まで運ばれて修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、博多港内でクルージングを行った際、水路状況の調査が不十分で、鵜来島から南側に張り出した暗礁に向首して進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、博多湾の港内クルージングに出かける場合、水深の不十分な海域に入ることのないよう、前もって海図にあたって航行予定海域の水路状況を調査すべき注意義務があった。しかしながら、同受審人は、昼間の港内航行の経験から、どの海域を通航しても支障ないものと思い、クルージングに先立ってマリーナで海図にあたるなど、博多港内の水路状況を調査しなかった職務上の過失により、鵜来島から南側に張り出した暗礁に気づかず、これに向首したまま進行して乗揚を招き、船底に亀裂を伴う擦過傷とドライブ・ユニットに曲損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |