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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年12月16日22時15分 香川県丸亀港 2 船舶の要目 船種船名
引船光勝丸 総トン数 19トン 全長 18.18メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 588キロワット 3 事実の経過 光勝丸は、主に愛媛県西条市の今治造船株式会社西条工場と香川県丸亀港の今治造船株式会社丸亀工場との間の鋼材輸送に従事する船首部に操舵室をもつ鋼製引船で、A受審人ほか1人が乗り組み、船尾方に船体ブロック4個約350トンを積載した全長約60メートルの台船SK1102を、長さ約30メートルの索で曳(えい)航して、船首0.8メートル船尾2.8メートルの喫水をもって、平成8年12月16日16時00分今治造船株式会社西条工場岸壁を発し、同社丸亀工場岸壁に向かった。 ところで、今治造船株式会社丸亀工場岸壁は、北西方に向けて出入口のある、南東方に向け奥行き約1,000メートル幅約650メートルの長方形状をした丸亀港内の北西側付近一帯に位置し、同岸壁北端には北北東方に約160メートル延びた防波堤が構築されており、その先端には丸亀港昭和町防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)が設けられていた。一方同港内奥の南東端陸岸前面の海域は、その両端部から舌状(ぜつじょう)の干出浜が北方に向けて約200メートル突出し、その周辺には幅約80メートルにわたって、底質が小石の浅所が拡延しており、同港奥の海域に向けて進行する船舶は、同陸岸前面から約280メートル以内の範囲に入ることのないよう、航行にあたっては、船位の確認を十分に行うことが必要な海域であった。 A受審人は、幾度も今治造船株式会社丸亀工場岸壁に着岸した経験があり、同港奥の陸岸前面のところには干出浜が存在していることを昼間の出入港時に視認して知っており、丸亀港の海図第1123号など水路書誌を船内に備えてはいなかったものの、同浜周辺の浅所の範囲等については、今治造船株式会社丸亀工場岸壁南側に隣接する昭和町東岸壁に固定して設けられたクレーンとその対岸側にある蓬来町南岸壁の南端角を結ぶ一線を同浅所の接近限界とする避険線として設定し、同港の水路模様については熟知していた。 こうして、A受審人は、航行中の動力船の灯火を表示し、21時35分ごろ防波堤灯台から057度(真方位、以下同じ。)90メートルの地点に達したとき、針路を今治造船株式会社丸亀工場岸壁にほぼ沿った152度に定め、これと約140メートルの航過距離を隔てて入航することとし、機関を微速力前進にかけて1.0ノットの曳航速力で進行した。 A受審人は、平素、今治造船株式会社丸亀工場の岸壁前面に達したころ、ここで曳航を終えて曳航索を放した後、台船に接舷し、横抱状態として同岸壁に着岸する方法をとっていたが、今回は、同岸壁の東方300メートル付近のところに3隻の停泊船が南北方向に縦列して錨泊していたことから、これらのうち南端の停泊船と替わった付近で台船の曳航を終えることとし、21時51分防波堤灯台から144度540メートルの地点に達したとき、針路を122度に転じ、その後舵及び機関を適宜使用して台船の姿勢を調整し、22時00分同灯台から137度820メートルの地点に達したとき、台船をほぼ停止させ、その切離し作業にとりかかった。 A受審人は、22時13分ごろ同作業を終え、左転して台船の左舷側に至り、曳航索を台船に引き渡したが、その後右転して台船の船首方を替わって台船の右舷側に着舷し、横抱するつもりで右転を開始し、同時14分少し前、防波堤灯台から132度800メートルの地点で、針路を126度に向首して機関を3.0ノットの微速力前進にかけて進行したが、このとき同人設定の前示避険線と前路約100メートルに接近する状況となり、周囲の照明灯で、目標にしていた前示クレーン及び岸壁角を視認し得る状況であったものの、切り離した台船の移動模様に気を取られ、船位の確認を十分に行うことなく続航し、同時15分少し前、再度右転しながら南東端陸岸付近の浅所に向首進行し、光勝丸は、22時15分防波堤灯台から136度930メートルの浅所に、船首が296度を向首したとき、原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は曇りで風力1の南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、月没は23時08分であった。 乗揚の結果、右舷船尾部船底に亀裂(きれつ)を伴う凹損を生じ、推進翼を曲損したが、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、香川県丸亀港の南東端陸岸付近の海域において台船を切り離し、その後、台船を横抱するにあたり、反対舷にまわるため同陸岸に接近する際、船位の確認が不十分で、同陸岸北側に拡延する浅所に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、香川県丸亀港の南東端陸岸付近の海域において台船を切り離し、その後、台船を横抱するにあたり、反対舷にまわるため同陸岸に接近する場合、同陸岸北側の干出浜周辺には浅所が拡延した状況であったから、同浅所に接近することのないよう、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、切り離した台船の移動模様に気を取られ、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、乗揚を招き、右舷船尾船底部に亀裂を伴う凹損と推進翼曲損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |