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1998年(平成10年)

平成9年横審第63号
    件名
交通船タラッサ乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年7月7日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

猪俣貞稔、川原田豊、西村敏和
    理事官
大本直宏

    受審人
A 職名:タラッサ船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:タラッサ航海士 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
右舷推進器軸及び同張出軸受などに損傷

    原因
針路選定不適切

    主文
本件乗揚は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年8月3日10時20分
浦賀水道笠島
2 船舶の要目
船種船名 交通船タラッサ
総トン数 19トン
全長 17.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 661キロワット
3 事実の経過
タラッサは、海上での工事作業に伴う作業員の輸送及び警戒業務などに従事する、2基2軸を備えたFRP製の交通船兼警戒船で、A及びB両受審人が乗り組み、同乗者2人を乗せ、魚釣りの目的で、船首0.75メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、平成8年8月3日09時10分京浜港横浜第5区の定係地を発し、神奈川県剱埼東方沖合の釣り場に向かった。
A受審人は、有限会社Aの代表を務め、同社所有船1隻を使用して警戒業務などを営んでいたが、同年3月タラッサを購入し、翌4月からプレジャーボートなど小型船の救助業務を請け負うようになったので、週末にはB受審人を臨時雇用してタラッサに乗り組ませ、以後数回にわたり京浜港横浜区の八景島周辺海域での救助業務に出動したが、B受審人が乗船中は、観音埼から海獺島(あしか)沖合に至る海域を航行することはなかった。
A受審人は、B受審人を手動操舵に就けて操船に当たり、剱埼東方の釣り場に向かうことだけを告げ、適宜の針路及び7.0ノットの対地速力で、港内の錨泊船を替わしながら進行し、09時20分横浜蛸根(たこね)海洋観測灯標から045度(真方位、以下同じ。)600メートルの地点において、浦賀水道航路第5号灯浮標の西方に向く171度の針路に定め、機関回転数毎分1,800の11.5ノットに増速し、同時36分横須賀港東北防波堤東灯台から045度1,600メートルの地点において、観音埼の東方に向く144度の針路に転じ、浦賀水道航路の西側航路外を南下して、観音埼灯台の東方に至って徐々に針路を右に転じ、10時06分観音埼灯台から104度950メートルの地点で、海獺島の東方に向く199度の針路として、同じ速力で続航した。
ところで、海獺島東方海域は、海獺島灯標から108度215メートルのところに略最低低潮面で0.9メートル干出する笠島が存在し、また、同灯標から090度150メートルのところには略最低低潮面で水深0.8メートルの暗岩が存在するなど、船舶の航行に危険な海域となっており、特に笠島は危険な干出岩であるため、同島から108度140メートルのところに東方位標識である笠島灯浮標が設置され、同灯浮標の東方に安全な水域が存在することが示されていた。
A受審人は、タラッサに主要な海図を備え付けており、海獺島と笠島灯浮標の間に危険な浅所が存在することを知っていたので、これまでにも観音埼から海獺島に至る海域を南下するときには、同灯浮標の東方に向く針路で航行していた。
こうして、A受審人は、199度に転針して間もなく、周囲に他船が少なくなったことから、B受審人に操船を委ねることとしたが、B受審人を雇用するようになってから約4箇月が経過したので、同人が海図などにあたって海獺島と笠島灯浮標の間の水域の事情を承知しているものと思い、笠島灯浮標を確認していつもの適切な針路を選定することも、同人に対し、笠島灯浮標の東方に向首するよう指示することもなく、操舵室後部の床に座って釣り具の準備を始めた。
一方、操船に就いたB受審人は、A受審人から針路などについて何ら指示がなかったので、このまま海獺島の東方をある程度離して進行すればよいと思い、適切な針路であるか否かを確認しなかったので、水没中の笠島に向首していることに気付かず、操舵装置の後方に立って右舷前方の海獺島を注視しながら続航中、10時20分海獺島灯標108度215メートルの水没中の笠島の東端に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力1の東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、潮高は約90センチメートルであった。
乗揚の結果、タラッサは、右舷推進器軸及び同張出軸受などに損傷を生じたが、自力航行して定係地に帰航し、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、浦賀水道海獺東方海域を南下するにあたり、海獺島を視認して同島の東方に向け針路を転じた際、針路の選定が不適切で、水没中の干出岩である笠島に向首進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が、笠島灯浮標の東方に向首する針路にしなかったばかりか、乗組員に操船を委ねる際、適切な針路を指示しなかったことと、当直者が、適切な針路となっているか否かを確認しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
A受審人が、浦賀水道を南下中、観音崎沖合で海獺島東方に向けて転針する場合、同島東方に存在する笠島に向首進行することのないよう、東方位標識である笠島灯浮標を確認したうえで、同灯浮標の東方に向く針路を選定すべき義務があった。しかしながら、同人は転じた針路が海獺島の東方に向いているので、笠島灯浮標の東方に向く常用の針路線に沿っていると思い、同灯浮標を確認して適切な針路を選定することを怠った職務上の過失により、水没中の干出岩である笠島に向首していることに気付かないまま進行して、これに乗り揚げ、右舷推進器軸などに損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人が、浦賀水道を南下中、単独で操船に従事する際、適切な針路となっているか否かを確認しなかったことは本件発生の原因となる。しかしながら、このことは、船長が、B受審人に操船を委ねるにあたり、適切な針路を指示しなかったことに徴し、職務上の過失とするまでもない。

よって主文のとおり裁決する。






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