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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年5月21日08時10分 千葉県名洗港 2 船舶の要目 船種船名 押船第参拾五擴湾丸
起重機船第参拾五擴湾号 総トン数 194トン 全長 30.02メートル 75.00メートル 幅
8.50メートル 23.00メートル 深さ 3.90メートル
4.80メートル 機関の種類 ディーゼル機関 出力 1,912キロワット 3 事実の経過 第参拾五擴湾丸(以下「擴湾丸」という。)は、2基2軸と2枚舵を装備した押船で、A受審人ほか8人が乗り組み、消波ブロックを積み込む目的で、船首尾とも1.80メートルの喫水となった空倉の鋼製起重機船第参拾五擴湾号(以下「擴湾号」という。)の船尾中央ノッチ部に、船首部を嵌号(かんごう)して擴湾丸押船列をなし、船首3.00メートル船尾3.50メートルの喫水をもって、平成9年5月21日06時30分千葉県銚子港を発し、同県名洗港に向かった。 ところで、名洗港は犬吠埼の西南西方に位置し、犬若鼻から消波ブロックを主体とした西南西方に約850メートル延びる防波堤と、その北側にある約560メートルの護岸堤とでコの字型を形成し、港口から港奥までの距離約850メートル幅420メートルの港で、防波堤の北側幅約280メートル以内が水深2メートル以下の浅水域となっていた。 A受審人は、船長として名洗港に入港するのは初めてであったが、クレーン操縦士のときに一度入港したことがあるので大丈夫と思い、同港の大尺度の海図を入手するなどして同港港内の水路調査を十分に行うことなく、水深2メートル以下の浅水域の存在に気付かないまま発航した。 発航後、A受審人は、犬吠埼東方沖合を南下したのち、長崎県鼻沖合を経由して西進し、07時53分少し前外川港東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から215度(真方位、以下同じ。)780メートルの地点において、針路を305度に定め、機関を半速力前進にかけ、5.9ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 07時58分少し過ぎA受審人は、東防波堤灯台から267度1,250メートルの地点に達したとき、名洗港に接近したので機関を極微速力前進の2.0ノットに下げ、右舵をとって防波堤南端を付けまわし、08時06分東防波堤灯台から287度1,240メートルの地点に達したとき、港内に2個の赤色標識灯が見えたので、同標識灯を右舷側に見て航行すれば無難に入航できるものと考え、針路を同標識灯に沿う064度に転じたところ、防波堤北側の浅水域に向首していたが、このことに気付かないまま続航中、擴湾丸押船列は、08時10分東防波堤灯台から296度1,070メートルの名洗港港内の浅水域に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の末期であった。 乗揚の結果、右舷舵を損傷したが、自力離礁し、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、千葉県名洗港に入港するにあたり、水路調査が不十分で、同港港内の浅水域に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、千葉県名洗港に入港する場合、船長として同港に入港するのが初めてであるから、銚子港発航前に名洗港の大尺度海図を入手するなどして水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、クレーン操縦士のときに一度入港したことがあるので大丈夫と思い、同港の水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、同港港内の浅水域に気付かないまま進行して乗り揚げ、右舷舵を損傷させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |