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1998年(平成10年)

平成9年那審第32号
    件名
漁船第一漁幸丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年3月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

長浜義昭、東晴二、井上卓
    理事官
供田仁男

    受審人
A 職名:第一漁幸丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
船底に小破口を生じて機関室に浸水

    原因
漂泊等の措置不適切

    主文
本件乗揚は、操船中の船長が便意を催して降橋する際に航行中断の措置がとられなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年11月1日03時20分
ソロモン諸島コロ礁湖
2 船舶の要目
船種船名 漁船第一漁幸丸
総トン数 59.83トン
登録長 24.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 441キロワット
3 事実の経過
第一漁幸丸は、ソロモン諸島ニュージョージア島西岸のノロ港を基地としてかつお1本釣り漁業に従事する、船橋にレーダー及びGPS等の航海計器を備え、最上船橋に手動操舵装置及び磁気コンパスを備えた鋼製漁船で、船首1.8メートル船尾2.1メートルの喫水をもって、操業の目的で、平成7年10月31日19時30分(ソロモン諸島標準時、以下同じ)ノロ港を発し、バングヌ島の南南東60海里付近の漁場に向かった。
ところで、A受審人は、英版海図第3995号等を備えていて、日ごろから漁場への途上、夜間に、バングヌ島とンガトカエ島との間のコロ礁湖内で火船が集めた餌(えさ)のかたくちいわしを獲っており、同礁湖内に散在する島嶼(しょ)や浅礁の状況をよく知っていた。
また、本船の乗組員は、A受審人、日本人の機関長及び甲板長並びにソロモン諸島人の甲板員37人で構成されており、A受審人は、甲板員のうち数人を操舵員として昇橋させていたが、いずれも針路保持の技量が未熟で、指示した針路から大きく逸脱することが度々あったものの、その都度、早期に気付いて事なきを得ていた。
こうしてA受審人は、23時55分バングヌ島の西方12海里付近で昇橋し、自らは適宜船橋と最上船橋とを行き来して船橋当直を行い、操舵員1人を最上船橋で手動操舵に当たらせ、翌11月1日02時43分ンガトカエ島マリウ山887メートル頂(以下、「マリウ山頂」という。)から288度(真方位、以下同じ。)7.9海里の地点に達したとき、コロ礁湖の入口に至り、針路を055度に定め、機関を全速力前進にかけ9.0ノットの対地速力で、小雨模様のなか、レーダーにより船位を確認しながら同礁湖内を進行した。
A受審人は、03時13分半マリウ山頂から323度6.3海里の地点において、マリウ山頂の北北西6海里付近のコロ礁湖内に存在する小島(以下「小島」という。)の北端を右舷側に150メートル離して安全に通過できるように針路を050度に転じ、そのころ便意を催したが、小島の北端に最接近するまでまだ数分あるので、それまでに用便を済ませて昇橋すれば大丈夫と思い、安全な水域で漂泊するなどして航行を一時中断する措置をとることなく、同時14分降橋した。
その後本船は、操舵に当たっていた操舵員の針路保持の技量が未熟で、針路が徐々に右偏し、小島の西側に拡延する浅礁に向首進行する状況となったが、用便中のA受審人は、このことに気付くことができなかった。
A受審人は、03時20分わずか前用便を終えて船橋に戻り、レーダーを監視したところ、レーダー画面の前路至近に強い反射を認めて不審に思った瞬間、03時20分マリウ山頂から332度6.2海里の地点において、075度に向首して、原速力のまま、小島の西側に拡延する浅礁に乗り揚げた。
当時、天候は雨で風力2の南東風が吹き、視程は約500メートルで、潮候は下げ潮の中央期であった。
乗揚の結果、船底に小破口を生じて機関室に浸水したが、僚船によって引き下ろされ、自力で排水しながらソロモン諸島のツラギ港に回航し、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、ソロモン諸島バングヌ島とンガトカエ島との間の、島嶼や浅礁の散在するコロ礁湖内を、針路保持の技量が未熟な操舵員を手動操舵につけて航行中、操船中の船長が便意を催して降橋する際、安全な水域で漂泊するなどの航行を一時中断する措置がとられず、小島の西側に拡延する浅礁に向かって針路が除々に右偏しながら進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、ソロモン諸島バングヌ島とンガトカエ島との間の、島嶼や浅礁の散在するコロ礁湖内を、針路線時の技量が、未熟な操舵員を手動操舵につけ、自らが操船に当たって航行中、便意を催して降橋する場合、安全な水域で漂泊するなどして航行を一時中断すべき注意義務があった。しかるに、同人は、数分で用便を済ませて昇橋するので大丈夫と思い、航行を一時中断しなかった職務上の過失により、降橋後小島の西側に拡延する浅礁に向かって、針路が除々に右偏したことに気付くことができず、同礁に乗り揚げ、機関室船底に小破口を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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