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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年2月7日03時50分 大分県国東半島東岸 2 船舶の要目 船種船名
貨物船さくら丸 総トン数 394トン 全長 54.69メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 735キロワット 3 事実の経過 さくら丸は、大分県津久見港を基地にして、専ら中津港、広島港、宮崎県延岡港及び関門港への砕石輸送に従事する船尾船橋型砂利運搬船で、船長B及びA受審人ほか、3人が乗り組み、砕石約1,250トンを載せ、船首3.70メートル船尾5.00メートルの喫水をもって平成9年2月7日00時58分津久見港大分鉱業桟橋を発し、中津港に向かった。 発航後、B船長は、中津港までの船橋当直を、02時15分までを自らが、02時15分から04時30分までをA受審人が、04時30分から06時までを次席一等航海士が、06時から中津港入航までを自らがそれぞれ単独で行うことにし、発航操船に引き続き1人で船橋当直に当たって豊後水道を九州東岸沿いに北上し、02時13分ごろ手動操舵により関埼灯台を左舷側に0.2海里ばかり離して通過して間もなく、昇橋してきたA受審人に船橋当直を引き継ぐことにした。 B船長は、自らは荷役当直に入直しないものの、連続した航海により疲労が蓄積するので定期的に停泊時間を確保して乗組員と共に休息をとるようにしていたほか、平素、船橋当直者には、不安なことがあったり眠気を催した際には報告するよう指示しており、A受審人が単独で船橋当直に当たって度々航行している海域なので「頼む。」とのみ告げて引継ぎを終え、02時15分関埼灯台から326度(真方位、以下同じ。)0.5海里の地点で同人に当直を委ねて自室に退き休息した。 A受審人は、手動操舵のまま船長から当直を引き継ぎ単独で操船に当たって間もなく、国東半島の東岸沿いに伊予灘西部を北上するよう針路を定めることにしてGPSプロッターを見たところ、国東港田深沖防波堤灯台(以下「沖防波堤灯台」という。)から096度1.4海里の地点に向首する平素の針路線の340度が表示されておらず、国東半島の東岸に接近する336度の針路線が表示されていることを知ったものの、GPSプロッターに表示された針路線に沿って1時間ばかり進行し、沖防波堤灯台の灯火を確認したのちに、同灯台から155度7海里ばかりの地点で沖防波堤灯台の東方沖合にある豊後大瀬灯浮標を左舷側に1海里離して航過するよう針路を転じる予定にし、02時17分豊後平瀬灯標から270度0.6海里の地点に達したとき、針路をGPSプロッターに表示された針路線に沿ってほぼ沖防波堤灯台に向首する336度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、12.0ノットの対地速力で伊予灘西部を北上した。 ところで、A受審人は、2月5日夜から翌6日朝まで津久見港内で錨泊待機中に十分睡眠をとったものの、その後は津久見港積み延岡港揚げの砕石輸送に従事して航海当直とそれに続く荷役当直を繰り返し、航海中に1時間程度仮眠をとったのみで、翌7日津久見港出航後は自室で本を読みながら時を過ごしたので当直のため昇橋したときには睡眠不足の状態であった。 定針して間もなく、A受審人は、前路に他船を認めなかったこともあって気が緩み、やがて眠気を催すようになった。しかしながら、同人は、当直交替まで2時間ばかりなのでまさか当直中に居眠りすることはあるまいと思い、速やかにこの旨を船長に報告して2人で当直に当たるなど居眠り運航の防止措置をとることなく、舵輪の後方に椅子を置きこれに腰を掛けて当直を続けるうち、いつしか居眠りに陥った。 こうして、A受審人は、03時17分ごろ転針予定地点に達したものの居眠りしていたのでこのことに気付かず、転針の措置がとられずにその後も依然居眠りを続けて国東半島東岸付近の浅所に向首したまま進行中、03時50分突然衝撃を受け、沖防波堤灯台から140度0.6海里の地点にあたる浅所に、原針路、全速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力1の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。 B船長は、衝撃を感じて急ぎ昇橋し、機関を停止して事後の措置に当たった。 乗揚の結果、右舷船首船底外板に小破口及び船首から船体中央部付近にかけての船底外板に凹損を伴う擦過傷を生じたが、救助船によって引き降ろされ、のち損傷部は修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、大分県津久見港から中津港に向け伊予灘西部を北上中、居眠り運航の防止措置が不十分で、国東半島東岸付近の浅所に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、単独で船橋当直に当たり、大分県津久見港から中津港に向け伊予灘西部を北上中、連続した航海による睡眠不足から眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、速やかにこの旨を船長に報告して2人で当直に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、船長に報告しなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、国東半島東岸付近の浅所に向首したまま進行してこれに乗り揚げ、右舷船首船底外板に小破口及び船首から船体中央部付近にかけての船底外板に凹損を伴う擦過傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |