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1998年(平成10年)

平成9年広審第112号
    件名
貨物船第十五陽周丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年3月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

上野延之、亀山東彦、畑中美秀
    理事官
清水正男

    受審人
A 職名:第十五陽周丸船長 海技免状:一級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
後部船底外板に擦過傷

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したもので
ある。
受審人Aの一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年2月2日22時02分
瀬戸内海 水島航路西方沖
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十五陽周丸
総トン数 2,504.43トン
全長 86.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 2,059キロワット
3 事実の経過
第十五陽周丸は、専ら瀬戸内海諸港間のセメント輸送に従事する船尾船橋型セメントタンカーで、A受審人及びB指定海難関係人ほか8人が乗り組み、空倉のまま、船首2.17メートル船尾4.50メートルの喫水をもって、平成9年2月2日16時40分姫路港を発し、徳山下松港に向かった。
A受審人は、船橋当直を一等航海士、甲板長及び自らによる3直制として各直にそれぞれ甲板員1人を付ける体制とし、出港操船後、17時10分一等航海士に船橋当直を引き継ぎ、降橋して夕食の際ビール2缶を飲んで休息した。
A受審人は、19時45分地蔵埼灯台の南東方3海里の地点で、風邪気味であったので風邪薬を服用して昇橋し、一等航海士から当直を引き継ぎ、同じく風邪気味で風邪薬を服用していたB指定海難関係人を操舵に配し、針路及び他船の避航措置等を間違えたときは操舵を指示することとし、自らは船橋前面中央よりやや右側に立って操船指揮に当たり、船橋の窓や戸を閉めてストーブで暖をとりながら西行し、20時備讃瀬戸東航路(以下「東航路」という。)に入航してから同指定海難関係人に東航路に沿って操舵することを指示し、20時47分少し過ぎ備讃瀬戸東航路中央第4号灯浮標(以下、備讃瀬戸東航路中央を冠する灯浮標の名称については、冠称を省略する。)から000度(真方位、以下同じ。)500メートルの地点で、針路を242度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの逆潮流に抗して11.2ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
A受審人は定針したころから風邪薬の影響で眠気を催したが、一時我慢すれば眠気が覚めるので大丈夫と思い、居眠り運航の防止措置として、外気に当たるなど眠気を覚ますことなく、21時01分少し前第3号灯浮標に並航して針路を257度に転じたのちしばらくして居眠りに陥り、操船指揮ができない状況となった。
B指定海難関係人は、船橋前面に立って前方に顔を向けているA受審人の後ろ姿を見ていたので同受審人が居眠りに陥っていたと思わず、宇高西航路の南下船を避航して東航路を続航し、21時20分半第2号灯浮標に並航し、同時23分少し前針路を249度に転じたのち、風邪薬の影響で眠気を催したが、A受審人が何かあったら指示してくれると思って同受審人にそのことを報告することなく、同時25分半鍋島灯台から071度5.2海里の地点に達したとき、針路を265度に転じて前路の漁船を避航し、自動操舵に切り換えたのち半睡状態となり、東航路に沿う針路に戻さないまま進行した。
B指定海難関係人は、21時37分半第1号灯浮標と並航する鍋島灯台から060度3海里の地点に至ったとき、半睡状態からふと目覚めて前路に水島航路東方の岩黒島橋橋梁の灯火を認めたものの、A受審人から何も指示がなかったので同灯火を北備讃瀬戸大橋橋梁の灯火と思い、21時56分少し過ぎ岩黒島橋下を航過し、水島航路西方の向島南方の浅所に向首して続航中、22時02分少し前正船首至近に向島南方養殖施設灯浮標の灯火を認め、左舵一杯としたが及ばず、第十五陽周丸は、22時02分鍋島灯台から302度2.1海里の向島南方の浅所に原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候はみぞれで風はなく、潮候は下げ潮の中央期で、乗揚地点付近に弱い東流があった。
A受審人は、乗揚の衝撃で目を覚まし、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、後部船底外板に擦過傷を生じたが、のち引船で引き降ろされた。

(原因)
本件乗揚は、夜間、東航路を西行する際、居眠り運航の防止措置が不十分で、漁船を避航したのち、針路を戻さないまま向島南方の浅所に向首進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が眠気を催した際、居眠り運航の防止措置として、外気に当たるなど眠気を覚まさなかったことと、操舵に当たっていた無資格の甲板手が眠気を催した際、船長に報告しなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、東航路を西行中、眠気を催した場合、居眠り運航の防止措置として、外気に当たるなど眠気を覚ますべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、一時我慢すれば眠気が覚めるので大丈夫と思い、眠気を覚まさなかった職務上の過失により、居眠りに陥って乗揚を招き、後部船底外板に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の一級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
B指定海難関係人が、A受審人の操船指揮のもとで操舵中、眠気を催した際、同受審人に報告しなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。






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