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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年6月25日01時45分 瀬戸内海 備讃瀬戸 鍋島 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第八金刀比羅丸 総トン数 694トン 全長 73.82メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 1,471キロワット 3 事実の経過 第八金刀比羅丸は、専ら愛媛県吉海港で積載した海砂を阪神地方各港に運送する石材及び砂利採取運搬船で、受審人Aほか6人が乗り組み、揚荷用台船の都合で海砂約500トンを揚げ残し、船首2.6メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、平城8年6月24日19時30分尼崎西宮芦屋港を発し、吉海港に向かった。 ところで、A受審人は、3週間ばかり前に乗船して以来、連日停泊時間の短い出入港が続いていたうえ、前回の積地で甲板部職員が1人欠員となり、平素3人の単独交代制で行っていた航海当直を一等航海士と2人で行うこととなったため、多少疲労気味となっていた。 A受審人は、吉海港までの航海時間を約11時間と予測して前半5時間の航海当直を一等航海士に行わせ、後半を自らが行うこととし、翌25日00時38分ごろ備讃瀬戸東航路中央第4号灯浮標(以下、灯浮標については「備讃瀬戸東航路」を省略する。)の1海里ばかり手前で昇橋し、当直を交代して備讃瀬戸東航路を西行中、01時17分半鍋島灯台から071度(真方位、以下同じ。)5.6海里の地点に達し、第1号灯浮標を右舷側300メートルに並航したとき、針路を同航路に沿って北備讃瀬戸大橋橋梁灯(C2灯)に向く250度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に乗じ、2度右方に圧流されながら12.0ノットの対地速力で進行した。 A受審人は、当直に就いたころから眠気を覚え、船橋内を歩きながら眠気を払って何とか当直を続けていたところ、定針したころ持病の腰痛が始まり立ったままでは当直を続けられない状況となり、このような場合いすに腰を掛ければ居眠りに陥るおそれがあったが、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置として他の乗組員を昇橋させて見張りの補助に就かせることなく、操舵輪後方のいすに腰を掛けて続航中、同時34分操舵スタンド左側のレーダーに後方3海里ばかりとなった大槌島を確認したものの、その後まもなく居眠りに陥り、第八金刀比羅丸は、01時45分鍋島灯台から059度240メートルの鍋島北東方の干出岩に乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力1の西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、乗揚地点付近には約1.3ノットの西流があった。 乗揚の結果、船首船底外板に破口や亀裂を伴う凹傷を生じたが、来援したサルベージ船に引き下ろされ、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、備讃瀬戸東航路を西行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、鍋島北東方の干出岩に向首したまま進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、備讃瀬戸東航路において、立って眠気を払いながら単独の当直に就いて西行中、持病の腰痛が再発し、立ったままでは当直を続けられない状況となった場合、椅子に腰を掛けると居眠りに陥るおそれがあったから、居眠り運航の防止措置として、他の乗組員を呼んで見張りの補助に就けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、椅子に腰を掛けてもまさか居眠りすることはあるまいと思い、他の乗組員を呼んで見張りの補助に就けなかった職務上の過失により、居眠りに陥って鍋島北東方沖合の干出岩への乗揚を招き、第八金刀比羅丸の船首船底に破口や亀裂を伴う凹傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。 |