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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年6月13日23時10分 沖縄県慶良間列島黒島西岸 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートセイシェル 登録長 6.79メートル 機関の種類 電気点火機関 出力
128キロワット 3 事実の経過 セイシェルは、レーダーを装備しない、主船外機のほかに7キロワットの予備船外機を備えたFRP製プレジャーボートで、魚釣りの目的で、A受審人が単独で乗り組み、知人2人を同乗させ、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、平成9年6月13日16時20分沖縄県宜野湾港を発し、黒島周辺の海域に向かった。 ところで、A受審人は、昭和63年に本船を購入して以来、毎月2回ほど慶良間列島周辺の海域に日帰りで魚釣りに行っており、海図を備えていなかったものの、黒島の周囲には干出さんご礁が存在していることなど同島周辺の水路状況を十分知っていた。 こうしてA受審人は、黒島西岸沖合に至って適当な釣り場を探し、17時50分慶良間黒島南方灯標(以下「黒島南方灯標」という。)から326度(真方位、以下同じ。)1,370メートルの、黒島の西方250メートルで水深25メートルの地点において、重さ5キログラムの5爪錨をを投じ、錨が岩に掛かったことを確認し、直径15ミリメートル長さ約200メートルの合繊維製錨索を50メートルほど伸出して釣りを開始した。 A受審人は、今回初めて夜釣りを行う計画で、日没後も釣りを続けていたところ、転流等で船首が振れ回ったかして、いつしか錨の爪が岩から外れて把駐力を失い、折からの東南東寄りの風と北北西流を受け北方に向かって走錨を始め、23時05分黒島南方灯標から328度1,790メートルの地点で、暗闇(やみ)の中に黒島の輪郭が変化していることを認めて走錨に気付いたものの、レーダー等による夜間の船位測定の手段がなく、再び安全に錨泊地点を選定できる状況でなかったが、備え付けの重さ15キログラムのダンフォース型の錨を投じてその場で錨泊を続けるなり、黒島から離れて日出まで漂泊するなど、走錨時の適切な措置をとらず、沖合に向け走錨した様に感じたことから、乾電池式強力ライトの明かりを頼りに、黒島に近付いて再び錨泊することができるものと思い、転錨するため直ちに揚錨を開始した。 A受審人は、前示地点で揚錨を終え、同乗者1人を船首に配置し、前路を乾電池式強力ライトで照射し浅礁を認めたら知らせるよう指示し、23時07分針路を086度に定め、機関を微速力前進にかけて1.8ノットの対地速力とし、黒島に近付いたところ、同時10分わずか前船首の同乗者から浅くなった旨の報告を受けたものの、何をするいとまもなく、23時10分黒島南方灯標から333度1,720メートルの、黒島西岸から張り出した干出さんご礁外縁に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は曇で風力3の東南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、潮流は弱い北北西流があった。 A受審人は、直ちに主船外機を跳ね上げ、予備船外機を使用して離礁を試みたものの、効なく、その後干出さんご礁上に打ち寄せられた。 乗揚の結果、主船外機及び予備船外機の推進器翼に曲損を、右舷側外板に亀(き)裂を生じ、那覇港に引き付けられ、のち修理された。 A受審人及び同乗者2人は黒島に上陸し、のち海上保安庁のヘリコプターによって無事救助された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、黒島沖合に錨泊中、走錨状態となった際、走錨時の措置が不適切で、レーダー等による夜間の船位測定の手段がないまま、転錨を開始し、周囲に干出さんご礁の存在する黒島に接近したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、黒島沖合に錨泊中、走錨を認めた場合、レーダー等による夜間の船位測定の手段がなく、安全に錨泊地点を選定できる状況でなかったのであるから、使用中の重さ5キログラムの5爪錨に替えて、備え付けの15キログラムのダンフォース型錨を投じ、その場で錨泊を続けるなり、黒島から離れて日出まで漂泊するなど、走錨時の適切な措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、乾電池式強力ライトの明かりを頼りに、黒島に近付いて錨泊することができるものと思い、走錨時の適切な措置をとらなかった職務上の過失により、転錨を開始し、同島の周囲に存在する干出さんご礁に接近して乗り揚げ、推進器に曲損を、船体に破口を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用してして同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |