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1998年(平成10年)

平成9年那審第40号
    件名
漁船良光丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年2月3日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

東晴二、井上卓、長浜義昭
    理事官
阿部能正

    受審人
A 職名:良光丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船底外板に破口、機関室へ浸水し転覆、のち廃船

    原因
水路調査不十分

    主文
本件乗揚は、水路調査が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年5月25日03時45分
沖縄県久米島兼城港
2 船舶の要目
船種船名 漁船良光丸
総トン数 19.94トン
登録長 14.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 120
3 事実の経過
良光丸は、まぐろはえ縄漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか機関長と甲板員1人が乗り組み、船首0.50メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、平成9年5月22日17時30分沖縄県泊漁港を出港し、慶良間列島南方沖合で操業し、乗組員の休息のため同県久米島兼城港に入り、同月25日03時20分同港を発し、再び慶良間列島南方沖合に向かった。
ところで、A受審人は、年間1、2回の兼城港寄港にあたって、同港の大干瀬(うふびし)、中干瀬(なかびし)両さんご礁が南北から迫った狭い水路を航行するとき、左右の偏りを確かめるため兼城港指向灯(以下、航路標識の名称については「兼城港」を省略する。)が有効であることも、適切な針路も知らないまま、第2号立標及び第3号立標を目標にして出入港を行っていたところ、それまで何事もなかったことから、このとき夜間の出港であったが、従来どおり第3号立標及び第2号立標を探してこれを目標に同水路を無難に航行できると思い、備えていた海図により発航前に指向灯の活用方法及び適切な針路について確認するなどの十分な水路調査を行っていなかった。
こうして、A受審人は、離岸後機関長を船首に配置して光力の強い懐中電灯により物標を探させながら、レーダー及びコンパスを使用せずに操船に当たり、機関を3.0ノットの微速力前進にかけ、防波堤内側をこれに沿って南下した。
03時37分A受審人は、第3号立標から015度290メートルの地点に達し、防波堤南端を右舷に通過したとき、右転を始め、少しずつ右転中、右舷前方に同立標を視認したので、これを目標に右転を続け、同時40分同立標から100度90メートルの地点に達したとき、針路をほぼ215度に定め、やがて正船首少し左方に第2号立標を視認した。
A受審人は、そのまま進行すれば大干瀬、中干瀬両さんご礁間の水路を左偏する状態であったが、水路調査が不十分であったことから、大干瀬、中干瀬両さんご礁間の水路中央を航行するため指向灯を活用したり、適切な針路に変更したりしないまま進行した。
03時44分A受審人は、第2号立標を40メートる離れて通過したとき、大干瀬北端付近の浅所に接近する状況であったが、同立標を十分隔てて通過したように見えたことから、ほぼ同一針路で続航中、03時45分第2号立標から235度110メートルの地点において、同浅所に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、潮流はほとんどなかった。
乗揚の結果、良光丸は、間もなく自力離礁し、大干瀬、中干瀬両さんご礁間の水路北側に投錨したが、船底外板に破口を生じていたことから、機関室への浸水が続くうち復原力を喪失して転覆し、のち兼城港内に引き付けられ、修理費の都合で廃船とされた。乗組員は転覆後間もなく来援した巡視艇により無事救助された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、沖縄県久米島兼城港を発航する際、同港についての水路調査が不十分で、大干瀬、中干瀬両さんご礁が南北から迫った狭い水路を航行中、同水路南側の大干瀬北端付近の浅所に接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、沖縄黒久米島兼城港を発航する場合、大干瀬、中干瀬両さんご礁間の狭い水路を航行するとき、指向灯を活用したり、適切な針路に変更できるよう、備えていた海図により同港についての水路調査を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、大干瀬、中干瀬間の水路途中の第2号立標を目標に無難に航行できると思い、海図により同港についての水路調査を十分に行わなかった職務上の過失により、大干瀬北端付近の浅所に接近して乗り揚げ、船底外板に破口を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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