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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年10月23日02時00分 静岡県下田港沖合 2 船舶の要目 船種船名
貨物船勢蓉丸 総トン数 471トン 登録長 67.41メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 956キロワット 3 事実の経過 勢蓉丸は、船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか5人が乗り組み、鋼材1,341トンを載せ、船首3.40メートル船尾4.30メートルの喫水をもって、平成8年10月22日18時30分京浜港川崎区を発し、静岡県大井川港に向かった。 A受審人は、出航操船を終えたあと、自船の速力から計算して目的港まで約10時間の航程であったので、一等航海士、次席一等航海士の順で3時間ずつ、引き続き自らが4時間、それぞれ単独の船橋当直を行うと決め、翌23日00時30分爪木埼の北東方沖合で次席一等航海士と交替して船橋当直に就いた。 ところで、A受審人は、伊豆半島沖合で北寄りの風が強いとき、陸岸に接航するほど海面が静かなので、同海域を西行するときには、爪木埼から静岡県下田港沖合の険礁域に存在する後藤根とサク根との間を航過して、石廊(いろう)埼の南方約1海里の地点に向かうこととしていた。 01時38分半A受審人は、爪木埼灯台から160度(真方位、以下同じ。)1,180メートルの地点に達したとき、平素のとおり後藤根とサク根との間に向くよう針路を249度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で手動操舵により進行した。 A受審人は、反航船などを適宜避けながら西行するうち、いつしか元の針路船から左方に約500メートル偏位して、01時51分神子元(みこもと)島灯台から010度3.5海里の地点に至っており、険礁の散在する海域に向かっていたものの、慣れたところを航行する安心感から、石廊埼指向灯を見たりレーダーを使用するなどして船位の確認を十分に行うことなく、針路を1度右方にとって250度としたところサク根に向首するようになったが、このことに気付かなかった。そしてこのころ、同受審人は、レーダーにより正船首方1.5海里のところにサク根の映像を認めたが、同海域で時々無灯火の漁船を認めたことがあったので、ほぼ高潮時でありサク根は低くてレーダーに映らないから無下火の漁船であろうと思い、近付いたところでかわすつもりで同一針路及び速力のまま続航した。 A受審人は、01時59分半間近に迫った前示映像をかわそうとして左舵をとったところ、02時00分神子元島灯台から344度3海里のところに存在するサク根に、230度に向首して乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候はほぼ高潮時であった。 乗揚の結果、船首部船底外板に小破口を伴う凹傷を生じ、船首水槽及び1番バラストタンクに浸水したが、のち自力で離礁し、下田港で仮修理をしたあと目的港に向かい、揚荷後修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、静岡県下田港沖合の険礁が散在する海域を西行中、他船を避航したのち、船位の確認が不十分で、同険礁域内のサク根に向首して進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、静岡県下田港沖合の険礁が散在する海域を西行中、転舵して他船を避航した場合、前路には後藤根やサク根等の険礁があることを知っていたのであるから、元の針路線から外れてそれらに向首することのないよう、石廊埼指向灯を見たりレーダーを使用するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、慣れたところを航行する安心感から、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、レーダーで船首方に認めたサク根の映像を無灯火の漁船と思い、間近まで近付いたところでこれをかわそうと転舵してサク根に乗り揚げ、船首部船底外板に小破口を伴う凹傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |