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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年3月9日18時30分 東京湾 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボートシーバード5 総トン数 12トン 登録長 11.35メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 330キロワット 3 事実の経過 シーバード5は、船体中央部にキャビンを有し、キャビン内前面右舷側とフライングブリッジの2箇所に操縦席を備えた2基2軸のFRP製プレジャーボートで、A受審人が1人で乗り組み、友人3人を乗せ、新たに定係地とすることにした千葉県市川市の江戸川川岸の桟橋まで回航する目的で、船首0.30メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、平成9年3月9日15時50分整備を依頼していた神奈川県久里浜湾の造船所を発し、千葉港葛南区に向かった。 A受審人は、発航して間もなく機関を全速力前進より少し落とした14.6ノットの対地速力として、東京湾浦賀水道航路の西側海域を同航路に沿って北上した。そして、16時50分同人は、京浜港横浜区の日産本牧ふとう灯台から112度(真方位、以下同じ。)1.1海里の地点に至ったころ、北西からの風波が強くなったので、9.1ノットの対地速力に減速し、同区沖を手動操舵により進行した。 17時11分少し過ぎA受審人は、京浜港川崎区扇島沖に差し掛かり、前路に東京湾横断道路工事のための作業船や浮標などが多数散在するのを認め、同工事海域を避けて東京湾横断道路東水路(以下「東水路」という。)を通る方が無難であり、航程も短縮できると考え、同水路に向かうこととした。そしてそのころ、同人は、それまでフライングブリッジで操船していたが、風波がますます強くなり、しぶきをかぶるようになったので、キャビン内の操縦席に移った。 17時46分少し過ぎA受審人は、京葉シーバース灯から239度4.9海里の地点に至り、針路を東水路に沿う048度に定め、しぶきがかかって見えにくくなった窓ガラス越しに前方を見張り、風波により船首を左右に振られながら続航した。 18時08分少し過ぎA受審人は、東水路を抜け京葉シーバース灯から264度1.7海里の地点に達したとき、前路に千葉県浦安市のよく見知っている広告塔の灯火などを視認した。そのとき、同人は、それらが非常に明るくて近くに見えたことから、既に浦安市沖に至ったものと思い、レーダーを使用するなどして船位を十分に確認することなく、船首が左方に大きく振られた際にそれらの灯火が見えたことや、いまだ同県袖ヶ浦市沖にいることなどに全く気付かないで、千葉港葛南区の水路入口に向かうつもりで右転し、針路を141度とした。 A受審人は、右転したことによって、袖ヶ浦市沖ののり養殖区画漁業漁場に向首進行することとなったが、すっかり浦安市沖に来ているつもりでいたので、コンパスコースも確認しないまま定係地付近で待機している知人に携帯電話で連絡をとる間に同漁場を示す灯浮標を認め、周囲の状況を確認しようと付近を回るうち、18時30分袖ヶ浦東京ガス西シーバース灯から247度1.6海里ののり養殖施設に船首を南方に向けて乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力7の北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期に当たり、日没時刻は17時42分であった。 乗揚の結果、シーバード5は両プロペラ軸をのり網に絡めて曲傷し、のり養殖施設が損傷した。また、A受審人及び友人3人は海上保安庁のヘリコプターにより救助された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、東京湾を千葉港葛南区に向けて北上中、船位の確認が不十分で、千葉県柚ヶ浦市沖ののり養殖区画漁業漁場に向けて進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、東京湾を千葉港葛南区に向けて北上中、前路に千葉県浦安市のよく見知っている広告塔の灯火などを認めた場合、自分が向かおうとする同港葛南区の水路入口への針路を正しく知ることができるよう、レーダーを使用するなどして船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、それらが非常に明るくて近くに見えたことから、既に浦安市沖に至ったものと思い、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、船首が左方に大きく振られた際にそれらの灯火が見えたことや、いまだ同県袖ヶ浦市沖にいることなどに全く気付かないで、同港葛南区の水路入口に向かうつもりで右転し、袖ヶ浦市沖ののり養殖区画漁業漁場に設置されたのり養殖施設に乗り揚げ、両プロペラ軸をのり網に絡めて曲傷し、のり養殖施設を損傷させるに至った。 |