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1998年(平成10年)

平成9年横審第55号
    件名
押船第八いわしろ丸被押作業船第八いわしろ号乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年2月5日

    審判庁区分
地方海難審判庁
横浜地方海難審判庁

雲林院信行、西山烝一、西田克史
    理事官
坂本公男

    受審人
A 職名:第八いわしろ丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
    指定海難関係人

    損害
第八いわしろ丸…右舷船底部外板亀裂
第八いわしろ号…左舷船底部外板亀裂

    原因
気象・海象(調査)不十分

    主文
本件乗揚は、気象情報の収集が不十分で、強風、波浪注意報が発令されている海域での漁礁用石材投入作業を中止しなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成7年1月18日18時20分
千葉県鵜原湾
2 船舶の要目
船種船名 押船第八いわしろ丸 作業船第八いわしろ号
総トン数 97トン
全長 24.50メートル 60.00メートル
幅 7.60メートル 22.00メートル
深さ 2.98メートル 4.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット
3 事実の経過
第八いわしろ丸は、船首船橋型鋼製押船兼引船で、受審人Aほか5人が乗り組み、漁礁用石材約1,500立方メートルを積載して船首尾とも3.10メートルの等喫水となった起重機船第八いわしろ号の船尾凹部に船首部をかん合し、千葉県興津湾付近海域で前年の港湾工事に使用したあと同県勝浦港港外の陸岸に仮置きされたままとなっている水中ブルドーザを同港内に移動させる作業及び興津湾内で漁礁用石材投入作業を行う目的で、船首2.00メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、平成7年1月17日10時福島県小名浜港を発し、勝浦港に向かった。
翌18日06時勝浦港港外に着いたA受審人は、前示ブルドーザの移動作業に取り掛かり、同日正午前に同作業を終了した。
ところで、興津湾は、房総半島の南東部に位置し、南東方を外洋に向けて開口した遠浅の湾で、その東方に鵜原湾、続いて勝浦港が隣接していて、興津湾口東角の犬ヶ埼と鵜原湾西角のツルシ鼻との間の海域には、陸岸から250メートルばかり沖合まで険礁が拡延していた。
一方、A受審人は、興津湾付近海域において約2年間も港湾工事や漁礁造り等に携わり、南寄りの風波が強くなると起重機船が陸岸方に圧流されるおそれがあったので、平素より発航前日に気象観測所等に電話で目的地到着日の気象、海象情報を問い合わせ、航海及び作業の安全を期していた。更に、同受審人は、同海域では午後になると南寄りの風波の強くなることがよくあるのを知っていたので、作業を行うにあたっては早朝から開始し、習慣として午後からの作業を行わないこととしていた。
A受審人は、漁礁用石材投入作業を翌日に回すつもりでいたところ、元請け業者より次の仕事の関係からできるだけ早く同作業を終えて欲しいと要請された。そこで、同受審人は、午後から作業を始めることとしたが、午前中海上が極めて平穏であったことから午後からも何とか穏やかな状態が続くものと思い、勝浦測候所に電話で問い合わせるなどして当日午後からの興津湾付近海域の気象情報の収集を行わなかったので、11時40分に強風、波浪注意報が発令されていることを知らず、同作業を中止することなく、12時勝浦港を出て、安場山三角点(52メートル)から254度(真方位、以下同じ。)1,780メートルの作業予定地点に向かった。
A受審人は、13時目的の地点に至り、第八いわしろ号の右舷錨を投じて錨鎖3節を延出し、同号の左舷船首及び船尾両舷から出した直径65ミリメートルの各化繊製ロープを、作業用として仮設されたそれぞれの係留浮標にとり、同時30分船首を北西方に向け前方の浅瀬に可能な限り近付けた状態で船固めをしたのち、ダイバー指示に従って石材の海中投入を開始した。
A受審人は、自らクレーンを操作しバケットで石材を海中投入するうち、17時ごろから南西風が少し強くなり始めたことを知ったが、残量が少なかったのでそのまま続行し、同時40分積載してきた石材全量を海中に投入し終えた。
A受審人は、船首尾とも1.30メートルの等契水となった第八いわしろ号を押して小名浜港への帰航準備を始めたころ突然風が強くなり、乗組員が伝馬船に乗って各係留索を解纜(かいらん)しようとしたができない状態だったので、左舷船首及び右舷船尾の各係留索を切断して揚錨し、繋(つな)ぎ留めたまま船首を回頭して沖出しするつもりで最後に残した左舷船尾の係留索を巻き込むうち、同浮標を引きずって北方に圧流され始めた。しかし、船首方の浅瀬が余りにも近く、船首部船底が浅礁に接触するおそれがあったので、圧流を止めるための投錨ができなかった。
A受審人は、18時05分最後に残した係留索を切断し機関及び舵を使って沖出しを試みたが、強い風と急速に大きくなった風浪により操船不能状態となって陸岸方に圧流され、犬ヶ埼及びツルシ鼻間の険礁に船底を擦過したあと、安場山三角点から292度480メートルの地点で第八いわしろ号に装備された作業用の船体固定杭を投下したものの、折損してその効なく、18時20分安場山三角点から358度570メートルの鵜原湾の砂浜に、船首を東方に向けて乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力8の南西風が吹き、波高約3メートルの南方からのうねりがあり、潮候は下げ朝の初期で、日没時刻は16時53分であった。
乗揚の結果、第八いわしろ丸は右舷船底部外板に、第八いわしろ号は左舷船底部外板に、それぞれ亀裂(きれつ)を生じて各船内に浸水したが、来援したサルベージ船により引き降ろされ、のちいずれも修理された。

(原因)
本件乗揚は、千葉県興津湾において、漁礁用石材投入作業を行うにあたり、気象情報の収集が不十分で、同湾付近海域に強風、波浪注意報が発令されていることを知らず、同作業を中止することなく、同作業後の帰航準備中に強風と風浪により操船不能状態となって、鵜原湾の砂浜に向け圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人が、千葉県興津湾において、漁礁用石材投入作業を午後から行おうとする場合、同湾付近海域では午後になると風波の強くなることがよくあるのを知っていたのであるから、同作業を無難に行うことができるか否かを判断できるよう、勝浦測候所に電話で問い合わせるなどして当日午後からの同海域の気象情報の収集を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、午前中海上が平穏であったことから午後からも何とか穏やかな状態が続くものと思い、気象情報の収集を十分に行わなかった過失により、強風、波浪注意報が発令されていることを知らず、同作業を中止することなく、同作業後の帰航準備中に強風と風浪により操船不能状態となって鵜原湾の砂浜に向け圧流され、同砂浜に乗り揚げて押船及び被押船の各船底外板に亀裂を生じさせ、各船内に浸水させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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