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1998年(平成10年)

平成9年長審第80号
    件名
漁船第七恵比須丸乗揚事件〔簡易〕

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年1月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難裁判庁

高瀬具康
    理事官
副理事官 尾崎安則

    受審人
A 職名:船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船体破損

    原因
針路選定不適切

    主文
本件乗揚は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
適条
海難審判法第4条第2項、同法第5条第1項第3号
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月14日15時17分
長崎県生月瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 漁船第七恵比須丸
総トン数 19トン
登録長 18.35メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 190
3 事実の経過
第七恵比須丸(以下「恵比須丸」という。)は、いか1本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.80メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、平成9年3月14日15時10分長崎県生月港内の館浦漁港を発し、壱岐島西方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、単独で出航操船に就いて生月港館浦北防波堤灯台(以下「北防波堤灯台」という。)から327度(真方位、以下同じ。)300メートルの地点で岸壁を離し、機関を3.0ノットの極微速力前進にかけ、手動操舵により漁港入口に向首して航行し、折からの霧雨に視界をやや狭められていたので、障害物の少ない生月島の南側を通って目的地に向かうこととした。
ところで、館浦漁港は、その入口が生月瀬戸最狭部の少し北側に開いていて、平戸島呼埼と生月島潮見鼻間の同最狭部には、長さ960メートルの生月大橋がかけられており、同橋を主として支える2基の橋脚間が可航幅320メートルの航路筋であり、その生月島側橋脚と潮見鼻間の水路は水深が浅く、一部小型漁船の通路になっていたものの、潮見鼻から浅礁が大きく拡延しているうえに強潮流があり、憩流時以外に通航するのは危険であった。
15時16分A受審人は、漁港入口の外側100メートルにあたる、北防波堤灯台から158度200メートルの地点に至り、生月瀬戸が強い南西流になっているのを認めた。しかし同受審人は、以前に僚船を追尾して生月島側橋脚と潮見鼻間を通航したことがあるので、無難に通れるものと思い、航路筋に向かう適切な針路を選定することなく、ひとまず針路を180度に定め、生月大橋橋梁灯(R1灯)に向首したところ、2ノットの強い南西流に圧流され、18度針路が右偏して潮見鼻から拡延した浅礁に接近する状況となった。
A受審人は、なんとか浅礁を替わるものと思いながらそのまま続航中、恵比須丸は、15時17分潮見埼東方照射灯から080度100メートルの地点において、船首方向180度、4.6ノットの対地速力で浅礁に乗り揚げた。
当時、天候は霧雨で風力2の北東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
恵比須丸は、乗揚後、急速に強まった北東風による風浪により浅礁地帯に打ち上げられ、船体が破損した。

(原因)
本件乗揚は、長崎県生月瀬戸において、生月大橋直下の瀬戸最狭部を南下するにあたり、針路の選定が不適切で、橋脚間の航路筋を通航せず、橋脚の陸岸側を航行して強潮流により浅礁に圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、館浦漁港を発航して生月大橋直下の瀬戸最狭部を南下する場合、生月島側橋脚と潮見鼻間の水路には陸岸から浅礁が大きく拡延しているうえ、当時強い南西流になっているのを認めたのであるから、潮流に圧流されて浅礁に接近することのないよう、橋脚間の航路筋に向かう適切な針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、以前に僚船を追尾して同橋脚の生月島側を通ったことがあるので、無難に通れるものと思い、橋脚間の航路筋を通航する適切な針路を選定しなかった職務上の過失により、浅礁に乗り揚げて船体を破損させるに至った。






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