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1998年(平成10年)

平成9年那審第24号
    件名
交通船第八十八あんえい号乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年1月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

長浜義昭、東晴二、井上卓
    理事官
阿部能正

    受審人
A 職名:第八十八あんえい号船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
両舷推進器及び左舷推進器軸に曲損

    原因
船位確認不十分

    主文
本件乗揚は、船位の確認が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年9月26日12時10分
沖縄県八重山列島竹富島南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 交通船第八十八あんえい号
総トン数 19トン
登録長 17.07メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 956キロワット
3 事実の経過
第八十八あんえい号は、有限会社A観光が借り受け、沖縄県石垣港を基地として同県八重山列島の諸港間の旅客輸送に従事する軽合金製交通船で、A受審人が単独で乗り組み、旅客4人を乗せ、船首0.30メートル船尾1.40メートルの喫水をもって、平成8年9月26日午前11時40分西表島の仲間港を発し、石垣港に向かった。
ところで、仲間港を出航して石垣港に向かうには、西表島と竹富島の間のさんご礁の散在する海域に設けられた、大原航路と通称される屈曲した狭い水路内を、同水路に沿って設けられた海面上の高さが約4.5メートルで柱形の立標を船首目標に順次たどり、水色の変化を目視して浅礁を確認しながら続行するもので、A受審人は、このことを十分知ったうえで運航に当たっていた。
こうしてA受審人は、仲間港を発航して間もなく機関を27.0ノットの全速力前進にかけ、いつもの様に立標を順次たどって大原航路を東行し、12時03分大原航路第10号立標(以下、立標名については、「大原航路」の冠弥を省略する。)から180度(真方位、以下同じ。)170メートルの地点で針路を060度に定め、そのころから雨が降り始めたので、機関を24.0ノットの港内全速力に減じて進行した。
A受審人は、12時08分第8号立標から180度200メートルの地点で左転し、第8号立標と第5号立標の間の水域を北上したが、そのころから雨足が強くなって視界が悪くなり、かつ、浅礁を確認できない状況になったので、レーダーを1.5海里レンジとして作動させ、速力を12.0ノットの半速力に適宜減じて続航した。
A受審人は、12時09分第5号立標から000度170メートルの地点に達したとき、雨が小降りとなって視界がやや回復し、第4号立標を確認できたので、針路を071度に転じ、再び機関を27.0ノットの全速力前進としたが、その先の第2号立標を探すことに気を取られ、大幅に減速し、レーダーを活用するなり、第4号立標の航過距離を目測するなどの船位の確認を行わなかったので、第4号立標の東方230メートルに存在する浅礁に向首、進行していることに気付かなかった。
A受審人は、なおも第2号立標を探しながら続航し、12時10分少し前同立標を視認したものの、日ごろ左舷側至近に見て航過する第4号立標の航過距離が130メートルとなっていたことに気付かず、その後雨で浅礁を確認できないまま進行中、12時10分第4号立標から105度230メートルの地点において、原針路、原速力のまま、浅礁の南端に乗り揚げ、これを擦過した。
当時、天候は小雨で風力2の南東風が吹き、視界0.5海里で、潮候は下げ潮の末期であった。
乗揚の結果、両舷推進器及び左舷推進器軸に曲損を生じたが、自力で石垣港に入港し、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、雨模様の八重山列島竹富島南方のさんご礁の散在する海域を東行する際、船位の確認が不十分で、浅礁に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、雨模様の八重山列島竹富島南方のさんご礁の散在する海域を東行する場合、雨で浅礁を確認できなかったのであるから、大幅に減速したうえ、レーダーを活用するなり、最寄りの立標の航過距離を目測するなりして船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに、同人は、次の立標を探すことに気を取られ、船位を十分に確認しなかった職務上の過失により、浅礁に向首、進行していることに気付かず、これに乗り揚げ、推進器及び推進器軸に曲損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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