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1998年(平成10年)

平成9年那審第23号
    件名
引船りゅうおう引船列乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年1月20日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁那覇支部

東晴二、井上卓、長浜義昭
    理事官
供田仁男

    受審人
A 職名::りゅうおう船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船底外板に凹損、測深儀の発受信部を損傷

    原因
船位確認不十分

    主文
本件乗揚は、船位の確認十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月23日17時50分
沖縄県伊良部島南側長山水路
2 船舶の要目
船種船名 引船りゅうおう 台船海進
総トン数 115トン
全長 29.90メートル 60.00メートル
幅 18.00メートル
深さ 3.75メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 551キロワット
3 事実の経過
りゅうおうは、航行区域を近海区域(国際航海)とする鋼製引船で、A受審人ほか4人が乗り組み、船首1.80メートル船尾3.20メートルの喫水をもって、台船海進を曳(えい)航し、平成8年12月23日16時45分沖縄県平良港を発し、伊良部島南側の長山水路経由で同県石垣港に向かった。
海進は、航行区域を近海区域(国際航海)とし、砂利、石材などを積載する非自航型鋼製台船で、このとき積荷はなく、船首、船尾共に0.35メートルの等喫水であり、船首端左右に止めたチェーンと長さ35メートルのりゅうおう側からの曳航索によりつながれていた。
ところで、長山水路は、伊良部島南側のさんご礁水域を水深7.50メートルまで掘り下げた幅115メートルの直線状の水路で、同水路の標識として、海図記載の航路標識のほか、沖縄県が管理する、塗色、灯色共に赤で、水路の南側境界線を示すA灯標及びB灯標が設置され、かつ同水路の安全航行のため、長山水路等通航船舶安全推進会議が作成した「長山水路等の船舶航行について」と題する印刷物(以下「印刷物」という。)が関係船社に配布されており、印刷物は航行上の注意事項と水路平面図とからなり、水路平面図には海図に記載されていないこれら標識も記載されていた。
離岸後A受審人は、長山水路を通り抜けて広い水域に出たとき曳航索を延長する予定で乗組員を休ませ、一人で操船に当たり、17時10分平良港西防波堤北灯台から250度(真方位、以下同じ。)0.4海里の地点に達し、平良港西口水路灯浮標を右舷側に見て通過したとき、針路を平良港西口水路及びこれに接続する長山水路に沿う242度に定め、機関を全速力前進にかけ、7ノットの曳航速力で進行した。
その後A受審人は、レーダー、海図及び印刷物を活用して船位を確認すると共に、針路を北東風による左方への圧流を考慮して適宜修正しながら長山水路内を続航した。
17時40分A受審人は、長山水路第2号灯標(以下「第2号灯標」という。)から060度0.7海里の地点に達し、A灯標を左舷側50メートルに見て通過したが、このとき後方の海進に気を遣っていたこともあって、レーダー、海図、印刷物などを活用したり、双眼鏡により同灯標の名称を確かめたりすることによる船位の確認を行わなかったので、A灯標を長山水路西口を示す第2号灯標と取り違え、そのため長山水路を通り抜けて広い水域に出たものと、また正船首少し左方遠方に認めた第2号灯標を同灯標の西方に設置されている長山港第1号立標であると思ってしまった。
17時42分A受審人は、第2号灯標から060度0.4海里に位置しているとき、広い水域に出たので曳航索を延長しようと、乗組員全員を甲板上に配置し、機関を徐々に減じて停止したうえ、それまでの曳航索とドラム巻きの長い曳航索との連結を行わせ、間もなく曳航索の連結を終えたのを認め、機関を適宜前進にかけ、曳航索の方向に船首方向を合わせるように操舵しながら曳航索を延ばさせたが、その間も船位を確認せず、曳航索の延長作業を見守った。そのころ引船列は、北東風により少しずつ左方に圧流される状態であった。
17時49分A受審人は、りゅうおうが第2号灯標から070度150メートルに、海進が075度400メートルにそれぞれ位置し、いずれも255度に向首しているとき、曳航索が250メートル出されて末端が曳航用フックに掛けられたのを確かめ、やがて曳航索が張ったところで機関を全速力前進にかけた。
A受審人は、このとき正船首間近に第2号灯標を認めたが、同灯標を長山港第1号立標と思っていたことから、その南側の広い水域を進行しようとして左舵とした。
こうして左転中、17時50分第2号灯標から108度60メートルの地点において、りゅうおうは、220度を向いて浅所に乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、潮候は高潮時で、日没は17時57分であった。
A受審人ほか乗組員4人は来援した巡視船及び引船により救助され、りゅうおうは翌24日朝引船により離礁し、伊良部島長山港港外で海進と共に錨泊して船底外板等を検査したうえ、再び海進を曳航して石垣港に向かった。
乗揚の結果、りゅうおうは船底外板に凹損を生じ、測深儀の発受信部を損傷し、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、沖縄県伊良部島南側の可航幅の狭い長山水路において、同水路を西行中、船位の確認が不十分で、同水路西口付近南側のさんご礁の浅所に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、沖縄県伊良部島南側の可航幅の狭い長山水路を台船を曳航して西行中、曳航索延長の作業を同水路を通り抜けて広い水域に出てから行うつもりで操船に当たる場合、同水路を示す標識を通過する際にはレーダー、海図、印刷物などを活用したり、双眼鏡により標識の名称を確かめたりして船位を確認すべき注意義務があった。
しかるに、同人は、後方の台船に気を遣っていたこともあって、同水路途中のA灯標を通過する際、船位の確認を怠った職務上の過失により、これを長山水路西口を示す第2号灯標と取り違え、そのため長山水路を通り抜けて広い水域に出たと思って曳航索延長作業を行い、これを終えたとき、第2号灯標の南側を進行しようとしてりゅうおうのさんご礁の浅所への乗揚を招き、船底外板の凹損等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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