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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年8月22日03時45分 伊豆半島南東沖合 2 船舶の要目 船種船名
貨物船登志丸 総トン数 697トン 全長 76.44メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 1,471キロワット 3 事実の経過 登志丸は、船尾船橋型貨物船兼砂利・石材運搬船で、A受審人ほか5人が乗り組み、砕石2,100トンを載せ、船首4.00メートル船尾5.45メートルの喫水をもって、平成8年8月20日21時00分大分県津久見港を発し、千葉港に向かった。 ところで、A受審人は、船橋当直が出港後船長の定めた時刻から船長、一等航海士及び自らの3人による単独4時間3直制と決められていたが、翌21日午後の自らの当直を終えた後、興味のあるテレビ番組に長時間見入っていて、十分な休息をとっていなかった。 A受審人は、翌々22日02時一等航海士と交替して船橋当直に就き、GPSにより船位を石廊(いろう)埼灯台から253度(真方位、以下同じ。)18.9海里の地点に測定したので、石廊埼を3海里離して航過するよう針路を082度に定め、機関を全速力前進にかけ、13.6ノットの対地速力で、舵輪後方に置かれた背もたれ及び肘掛け付きの椅子(いす)に腰を掛けて見張りにあたりながら、自動操舵により進行した。 A受審人は、03時15分ごろから眠気を催すようになったが、同時21分半石廊埼灯台から175度3海里の地点に達したので、伊豆半島と神子元(みこもと)島との間に針路を転じるにあたり、船首方からの反航船の進路を避けるよう、自動操舵のまま取りあえず針路を050度に転じて続航した。しかしながら同受審人は、まさか居眠りをすることはあるまいと思い、椅子から立ち上がって身体を動かすなどして眠気の払拭に努めることも、休息中の船長に連絡することもなく、依然椅子に腰掛けたままでいるうち、いつしか居眠りに陥った。 こうして、A受審人は、前示反航船が替わったのち、そのままの針路で航行すると静岡県下田港沖の険礁域に向首する態勢であったが、居眠りに陥っていてこのことに気付き得ず、同険礁域を避ける針路に転じられないで続航中、03時45分神子元島灯台から348度2.1海里の横根に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力1の南風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。 船長は、自室で休息していたところ衝撃を感じて昇橋し、険礁に乗り揚げたことを知り、事後の措置にあたった。 乗揚の結果、船首部船底外板に破口を生じて船首水槽に浸水したが、自力で離礁し、のち修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、単独で船橋当直にあたり、静岡県伊豆半島沖合を東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、同県下田港沖の険礁域にある横根に向けて向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、単独で船橋当直にあたり、静岡県伊豆半島沖合を東行中、椅子に腰を掛けて見張りにあたるうち眠気を催した場合、椅子から立ち上がって身体を動かすなどして眠気の払拭に努め、それでも睡魔に襲われる傾向にあれば休息中の船長に連絡するなど居眠り運航の防止措置を十分にとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、まさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置を十分にとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、同県下田港沖の険礁域に向首進行して横根に乗り揚げ、船首部船底外板に破口を生じさせて船首水槽に浸水させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
よって主文のとおり裁決する。 |