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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年12月23日22時40分 大分県北海部郡佐賀関町関埼 2 船舶の要目 船種船名
油送船十五しんこう 総トン数 498トン 全長 64.48メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 735キロワット 3 事実の経過 十五しんこう(以下、「しんこう」という。)は、主として岡山県水島港から九州各港に石油製品を運搬する、船尾船橋型油送船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか3人が乗り組み、ガソリン及び軽油合計約890キロリットルを載せ、船首2.6メートル船尾4.4メートルの喫水をもって、平成8年12月23日10時40分水島港を発し、最初の寄港地である宮崎県油津港に向かった。 ところで、A受審人は、船橋当直を同人、一等航海士及び無資格のB指定海難関係人の3人による、単独の3時間当直体制をとり、平素、B指定海難関係人に対しては、同人の乗船経歴が豊富であったので、危険物積載船であるから事故防止に十分気を付けるように注意をしていたものの、居眠り運航防止については、眠気を催したときには船橋の外に出たり、コーヒーを飲んだり、顔を洗ったりして眠気を覚まし、眠気がとれないときには船長を呼ぶように話をしていたが、これを厳重に指示していなかった。 出港後、A受審人は、在橋してB指定海難関係人に船橋当直を行わせ、次いで14時00分から一等航海士に当直を任せ、14時20分いったん愛媛県越智郡伯方島沖合に仮泊して船用品を積み込んだのち、同時55分同地を離れて鼻栗瀬戸を通航し、安芸灘を南下した。 17時00分、釣島水道に差し掛かる手前に達したとき、再びA受審人は、昇橋して当直に当たり、18時05分釣島を左舷に並航して伊予灘を西行し、20時00分襖鼻灯台から017度(真方位、以下同じ。)10.3海里の地点に達したとき、針路を224度に定め、機関を11.0ノットの全速力前進にかけ、折からの南西に向かう潮流に順じて、約11.7ノットの対地速力で、自動操舵により進行し、その後B指定海難関係人に当直を行わせることにしたが、現在の船位と針路を引き継ぎ、居眠り運航を防止するため、眠気を催したときには直ちに報告するように厳重に指示することなく、同時10分ごろ、降橋して自室で休息した。 B指定海難関係人は、自動操舵のまま見張りに当たっているうち、当直に入る前に休息をとっていたものの、停泊中の荷役作業と航海中の断続的な休息のため、少し疲労していてやや睡眠不足であったことと、当時、船橋を締め切ってストーブの暖房で暖かかったことから、21時30分ごろ、眠気を感じたが、船橋のドアを開けたり、室外に出て外気に当たるなど眠気を覚ます努力をしなかった。 B指定海難関係人は、22時00分、佐田岬灯台の灯光を左舷正横1.2海里に見て航過し、折から強い南東に向かう潮流により、4度ばかり左に圧流されて、約11.0ノットの対地速力となって航行中、速吸瀬戸から北上する2隻の航行船を認めてこれを替わしたのち、次に高島の方から接近した漁船を認め、手動操舵に切り替えたものの、そのまま左舷対左舷で通り過ぎたので、自動操舵に戻して操舵スタンドに寄り掛かっているうち、同時10分ごろ、周囲に他の航行船がいなくなったことから気が緩み、疲労と睡眠不足から急に眠気を催し、居眠り運航になるおそれが生じたが、居眠りすることはあるまいと思い、船長に報告することなく、いつしか居眠りに陥った。 そして、B指定海難関係人は、22時15分ごろ速吸瀬戸中央付近で、豊後水道に向けて転針する予定地点に達したものの、居眠りしていてこのことに気付かず、しんこうは、居眠り運航となって転針できずに関埼に向かって続航し、22時40分関埼灯台から162度350メートルの陸岸に、原針路、原速力で乗り揚げた。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期で、速吸瀬戸では約2.7ノットの南東に向かう潮流があった。 A受審人は、衝撃を感じて目覚め、昇橋して乗り揚げたことを知り、船体の状況を調査したのち、満潮時を待って翌24日06時30分自力離礁した。 乗揚の結果、船体中央部の船底に、亀(き)裂を伴う凹損を生じたが、応急措置をとったのち、目的港に向けて航行し、その後造船所に回航されて修理された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、瀬戸内海を豊後水道に向け転針する予定で航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、関埼の陸岸に向かって進行したことによって発生したものである。 運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、眠気を催したとき報告するように厳重に指示しなかったことと、同当直者が、眠気を催した際、船長に報告しなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、夜間、瀬戸内海を豊後水道に向け転針する予定で航行中、無資格の甲板長に単独の船橋当直を行わせる場合、居眠り運航にならないよう、眠気を催した際には直ちに報告するように、厳重に指示すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、平素、当直中に眠気を感じたら外に出たり、コーヒーを飲んだり、顔を洗ったりして眠気を防止し、眠気が覚めないときには呼ぶように話しているから大丈夫と思い、眠気を催した際には直ちに報告するように、厳重に指示しなかった職務上の過失により、船橋当直の甲板長が報告をしないで居眠りに陥り、しんこうが居眠り運航となって転針予定地点で転針できないまま、関埼に向かって進行し、その陸岸に乗り揚げる事故を招き、同船の船底外板に亀裂を伴う凹損を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して、同人を戒告する。 B指定海難関係人が、夜間、単独で船橋当直に就き、瀬戸内海を豊後水道に向け転針する予定で航行中、眠気を催した際、居眠り運航の防止措置がとれるよう、船長に直ちに報告しなかったことは、本件発生の原因となる。 B指定海難関係人に対しては、事故後、同人が再発防止に努めているとともに、船舶所有者が、船橋当直のマニュアルを作成し、船橋に居眠り防止のための警報装置を設置するなど居眠り運航防止に努めている点に徴し、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。 |