|
(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年11月3日21時20分 安芸灘小館場島 2 船舶の要目 船種船名
プレジャーボート平成丸 登録長 7.32メートル 機関の種類 電気点火機関 出力
5キロワット 3 事実の経過 平成丸は、船体ほぼ中央部にキャビンとマスト1本を、船尾に舵柄・船外機1基を、磁気コンパス・GPS及び財団法人日本水路協会発行のヨット・モーターボート用参考図をそれぞれ備えたFRP製スポーツクルーザーヨットで、A受審人ほか3人が乗り組み、日本外洋帆走協会西内海支部広島フリートが主催する1996年度・広島フリートポイントレースNo.6安居島レース(以下「安居島レース」という。)に参加する目的で、バラストキール下端まで1.4メートルの喫水となって、平成8年11月3日09時広島県廿日市市阿品の係留地を発し、安居島レーススタート地点に向かった。 ところで安居島レースは、広島湾北部の小黒神島南側をスタート地点とし、帆走のみにより同湾を南下、柱島水道を経由して安芸灘に入り、三ッ石灯台南側海域、大館場島・小館場島近くの北側海域を通過して安居島に向かい、同島を周回して折り返し地点とし、スタート地点に戻るレースコースであり、当日は19艇が競技に参加していた。また、A受審人は、7年ほどのクルーザーヨットレース参加経験があり、過去にも、安居島レースに参加したことがあった。 A受審人は、発航時から操舵操船に当たり、同日13時小黒神島南約0.5海里のスタート地点を発進してレースを開始して、順調に競技を続け、安居島を周回して折り返し地点を通過した後、20時30分安居島灯台から298度(真方位、以下同じ。)0.6海里の地点で小館場島北側海域に向かうため、船尾右方から風を受けてメインセールを左舷正横に開き、スピンネーカーを展張して、6.5ノットの対地速力で、針路を248.5度に定めて、自らは船尾で舵柄を保持し、他の乗組員をキャビン後方のコクピットで見張りに当たらせて進行した。 定針後、A受審人は、あらかじめ入力していた、三ッ石灯台から180度0.2海里の転針地点に至る方位をGPSに表示させ、自船の針路を同方位に一致させるように操舵し、折からの風の影響により左方に2度圧流されながら続航した。 こうしてA受審人は、自船が小館場島北側に拡延する浅所に向首進行していたが、船首方位を前示転針地点に合わせていれば同地点に達するものと思い、船首方位をGPSに表示される現在地点から転針地点に至る方位に一致させるよう操舵することにばかり気を奪われ、GPSを活用して船位を確認しなかったので、前示のとおり圧流されていることに気付かず、同進路・同速力のまま続航中、21時20分わずか前左舷方至近に迫った小館場島に気付き、乗揚の危険を感じて、直ちに右舵一杯とするも及ばず、平成丸は、21時20分三ッ石灯台から077度2.4海里の同島北側に拡延する浅所に、船首が253度を向いて、ほぼ原速力のまま乗り揚げた。 当時、天候は晴で風力4の北東風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、月出時刻は23時47分であった。 乗揚の結果、船底部が大破して廃船となり、乗組員4人は小館場島に上陸して、のち僚船に救助された。
(原因) 本件乗揚は、夜間、ヨットレースに参加して安芸灘南部を、風の影響により圧流されながら帆走中、船位の確認不十分で、小館場島北側に拡延する浅所に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、ヨットレースに参加して安芸灘の安居島沖合から小館場島側海域に向け、船尾右方から風を受けて帆走する場合、風の影響による圧流で、同島北側に拡延する浅所に乗り揚げないよう、GPSを活用して、船位を十分に確認すべき注意義務があった。しかるに同人は、船首方位を転針地点に合わせていれば同地点に達するものと思い、船首方位をGPSに表示される自船の現在位置から転針地点に至る方位に一致させるよう操舵することにばかり気を奪われ、船位を十分確認しなかった職務上の過失により、同浅所に向首進行して乗揚を招き、船底部を大破させるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。 |