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1998年(平成10年)

平成10年門審第18号
    件名
貨物船第二豊丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年6月30日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實、畑中美秀、岩渕三穂
    理事官
伊東由人

    受審人
A 職名:第二豊丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船体中央部左舷船底に亀裂を伴う凹傷と擦過傷、同部右舷ビルジキールに曲損及び船体中央部船底に凹損を伴う擦過傷

    原因
針路選定不適切

    主文
本件乗揚は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月22日02時50分
福岡県倉良瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二豊丸
総トン数 299トン
全長 64.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第二豊丸(以下「豊丸」という。)は、バウスラスターを装備した船尾船橋型貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、鋼材1,050トンを積載し、船首3.27メートル船尾4.27メートルの喫水をもって、平成9年7月21日11時40分香川県詫間港を発し、途中、長崎県壱岐島の久喜漁港に寄港する予定で熊本県長洲港に向かった。
A受審人は、船橋当直を同人、機関長及び甲板員の3人による各4時間交替の単独当直制とし、翌22日01時ごろ関門海峡を通過後、響灘に入ったところで狭水道部署を解いて単独で当直に就き、02時30分倉良瀬灯台から063度(真方位、以下同じ。)2.7海里の地点に達したとき、倉良瀬戸の、地ノ島と倉良瀬間の水道を通航する予定で針路を245度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて11.0ノットの対地速力で進行した。
ところで、倉良瀬戸は、福岡県宗像郡玄海町の北岸と、その北西方に位置する大島及びその東側の地ノ島に囲まれ、ほぼ南北に開いた、多数の浅所や暗岩等が存在する瀬戸で、同瀬戸の南口は、オノマ瀬と一ノ瀬の間の可航幅1,300メートルからなる出入口が1箇所であるが、北口は、大島北東端の加代鼻と倉良瀬の間の可航幅2,000メートルからなる北口西側と、同瀬と地ノ島北西端との間の可航幅600メートルからなる北口東側の2箇所に分かれており、北口東側は、主に漁船や小型船舶が良く利用する水道であるが、地ノ島北西端付近から北西方に350メートルにわたって岩礁や暗岩が存在し、その北西端に目安として地ノ島北西灯浮標が設置され、また、倉良瀬には倉良瀬灯台が設置されていたものの、同瀬を扇型状に囲む5メートル等深線が、同灯台の東側300メートル、南側280メートルおよび西側200メートルにわたって広がっており、その等深線の内側には多くの岩礁が散在し、また、同水道では漁船が多数操業することもあるので、航行船は慎重に操船しながら通航する必要があった。
02時39分、A受審人は、倉良瀬灯台から060度1海里の地点に達したとき、倉良瀬戸北口東側の水道内で操業中の漁船2隻の白灯と、その後方に、これらの漁船から引かれた漁網の黄色点滅標識灯20数個が地ノ島近くまで達しているのを視認し、同灯台と操業漁船との間の水域は極端に狭められ、水道の入り口がほぼ閉塞された状況であったが、これまで何度も同水道を通航した経験があったので、同灯台と操業漁船との間の灯台側に近寄った狭い水域を何とか通航出来るものと思い、その水域に向けて針路を239度に転じたものの、一旦行きあしを止めて同灯台周辺の水路状況を十分確かめたうえで、大島の北側へ迂(う)回するなどの安全な針路を選定することなく、針路を転じることに迷いながら速力を微速力前進の5ノットに減じて航行した。
A受審人は、そのまま倉良瀬戸北口東側に向かって続航し、初めの操業漁船を左舷に10メートルほど離して航過したのち、次の操業漁船と倉良瀬灯台の間に船首を向け自動操舵のまま進行していたところ、潮流を受けて少し北側へ流され、02時50分倉良瀬灯台から170度50メートルの岩礁に乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力1の南西風が吹き、潮候は下げ潮の末期で、付近には北から北東に向かう弱い潮流があった。
乗揚の結果、豊丸の船体中央部左舷船底に亀(き)裂を伴う凹傷と擦過傷、同部右舷ビルジキールに曲損及び船体中央部船底に凹損を伴う擦過傷をそれぞれ生じたが、高潮時を待って自力で離礁し、のち修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、倉良瀬戸北口東側にあたる、地ノ島と倉良瀬との間の水道に向けて西航中、同水道が操業漁船で閉塞された状況となった際、針路の選定が不適切で、大島の北側へ迂回する針路とせず、倉良瀬灯台と操業漁船との間の狭められた水域に向かって進行し、同瀬の岩礁に著しく接近したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、倉良瀬戸北口東側にあたる、地ノ島と倉良瀬との間の狭い水道に向けて西航中、同水道を閉塞して操業する漁船の灯火と多数の漁網の標識灯を認めた場合、倉良瀬の周辺には岩礁があり、倉良瀬灯台の近くは操業漁船とその漁網によって可航域が狭められた状況にあったから、同灯台周辺の岩礁に接近して乗り揚げることのないよう、大島の北側を迂回する安全な針路を選定すべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、これまで何度も同瀬戸を通った経験があったことから、操業漁船と倉良瀬灯台との間の狭められた水域を何とか通航できるものと思い、同水域へ向かって航行し、大島の北側へ迂回する針路に変更するなど、安全な針路を選定しなかった職務上の過失により、倉良瀬灯台至近の岩礁に著しく接近して乗り揚げ、豊丸の船底外板に亀裂を伴う凹傷等を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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