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1998年(平成10年)

平成9年神審第108号
    件名
貨物船第十六善丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年5月28日

    審判庁区分
地方海難審判庁
神戸地方海難審判庁

佐和明、山本哲也、清重隆彦
    理事官
岸良彬

    受審人
A 職名:第十六善丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
B 職名:第十六善丸一等航海士 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
明石海峡大橋の舞子護岸のコンクリート剥離等、船首底部に破口を伴う凹損等、船首水倉に浸水

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    二審請求者
理事官岸良彬

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したもので
ある。
受審人Bの四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年10月5日04時07分
明石海峡
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第十六善丸
総トン数 497トン
全長 70.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第十六善丸は、船尾船橋型貨物船兼石材運搬船で、専ら兵庫県東播磨港から大阪湾内の港湾埋立地への鉱滓(こうさい)輸送に従事していたところ、A、B両受審人ほか3人が乗り組み、同貨1,632トンを載せ、船首3.5メートル船尾5.0メートルの喫水で、平成8年10月5日02時55分東播磨港を発し、大阪港に向かった。
A受審人は、平素船橋当直をB受審人と甲板員との2人で当たらせ、当直中に眠気を催したり不安を覚えるようなときには、速やかに連絡するよう同受審人に指示しており、明石海峡に差し掛かると、気象状況や船舶の輻輳(ふくそう)具合を自室の窓から確認したうえ、昇橋して当直を交替し、引き続き目的地まで単独で操船に当たることにしていた。
発航後、A受審人は、自ら操舵操船に当たって東播磨港外に至り、03時05分出港配置を終えたB受審人に船橋当直を任せたとき、2人当直の甲板員が在橋していないことに気付いたものの、そのうちに昇橋するものと思い、明石海峡で昇橋する旨を告げて自室に退き、作業日報の整理を始めた。
ところで、B受審人は、4日早朝から船務に就き、東播磨港においてこれを終えた同日19時ごろ甲板員2人と上陸し、23時半ごろまで遊行して帰船し、2時間ばかりの睡眠をとったのち、翌5日02時45分出港配置に就き、同作業終了後、当直の甲板員が非常に疲れているようなので、同甲板員を休ませることにして昇橋した。
このようにして、B受審人は、睡眠不足の状態のまま、単独で船橋当直に就き、船橋中央部のいすに腰を掛け自動操舵で当直を続けていたところ、03時30分ごろ眠気を催すようになり、顔を洗って眠気を覚ましたうえ播磨灘を東行した。
03時45分B受審人は、江埼灯台から272度(真方位、以下同じ。)2.6海里の地点に達したとき、針路を070度に定めて自動操舵とし、機関を11.5ノットの全速力前進にかけ、折からの東流に乗じて3度ばかり右方に圧流されながら13.0ノットの対地速力で進行した。
このころ、A受審人は、自室の窓越しに明石海峡航路西方灯浮標に近づいたことを知り、明石海峡には航行船がほとんどいないことを確認したうえ、引き続き書類整理作業を続けた。
定針後、いすに腰を掛けたまま当直を続けていたB受審人は、周囲に航行する船舶を認めず、睡眠不足であったことから、再び眠気を催すようになった。
しかしながら、B受審人は、A受審人が昇橋してくるので、それまで居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置として、A受審人に電話で昇橋を求めることなく当直を続けているうちいつしか居眠りに陥った。
こうして、第十六善丸は、B受審人が居眠りに陥り、03時55分左舷正横400メートルばかりに、転針目標の明石海峡航路中央第1号灯浮標を左舷側に通過したが、予定の転針措置がとられないまま、明石海峡大橋の舞子護岸に向けて進行し、04時07分江埼灯台から053度2.4海里の、同護岸周囲の捨て石に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力2の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、付近には1.5ノットの東流があった。
自室で執務中のA受審人は、衝撃を感じて急ぎ昇橋し、乗り揚げたことを知り、事後の措置に当たった。
乗揚の結果、船首部が明石海峡大橋の舞子護岸に接触してコンクリート剥離(はくり)等の損傷を与え、船首底部に破口を伴う凹損等を生じ、船首水倉に浸水したが、本州四国連絡橋公団の警戒船の援助を受け、機関を後進にかけて離礁し、自力で目的地に向かい、のちそれぞれ修理された。

(原因)
本件乗揚は、夜間、明石海峡航路に向けて東行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、明石海峡大橋の舞子護岸に向首したまま進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
B受審人は、夜間、睡眠不足のまま単独で船橋当直に当たり、明石海峡航路に向けて東行中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、船長に昇橋を求めるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、間もなく船長が昇橋してくるので、それまで居眠りすることはあるまいと思い、船長に昇橋を求めるなど、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥り、予定の転針を行うことができないまま進行して乗揚を招き、船首底部に破口を伴う凹損及び明石海峡大橋の舞子護岸のコンクリート剥離等を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

よって主文のとおり裁決する。






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