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1998年(平成10年)

平成9年長審第65号
    件名
漁船恕丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年4月24日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、関?彰、安藤周二
    理事官
平良玄栄

    受審人
A 職名:恕丸船長 海技免状:一級小型船舶操縦士
B 職名:恕丸甲板員 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
船首部を圧壊、船底全般に一部亀裂を伴う凹損、舵軸などに曲損、船長、甲板員が、それぞれ全治約1箇月の骨折等

    原因
針路選定不適切

    主文
本件乗揚は、針路の選定が適切でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月6日04時50分
長崎県平戸島南方帆上ノ瀬
2 船舶の要目
船種船名 漁船恕丸
総トン数 4.2トン
登録長 11.98メートル
機関の種類 ディーゼル機関
漁船法馬力数 90
3 事実の経過
恕丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、A、B両受審人が2人で乗り組み、仕掛けていた刺網揚収の目的で、船首0.70メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、平成9年3月6日03時00分長崎県黒島漁港を発し、同時20分伏瀬灯標から305度(真方位、以下同じ。)3.6海里ばかりの地点に至って揚網を開始した。
04時40分A受審人は、伏瀬灯標から308度3.9海里の地点で揚網を終えて発航の準備を整え、同時45分半同地点を発進して黒島漁港に向かい、平素と同様に針路を076度に定め、機関を20.0ノットの全速力前進にかけ、レーダーが故障して使用できなかったので、GPSプロッタの描く航跡を見ながら手動操舵により進行した。
A受審人は、漁場発進地点と黒島漁港との間に帆上ノ瀬が存在しており、同瀬が海面上約27メートル突き出た独立岩礁で周囲の水深も十分にあり、夜間でも視界などの条件が良ければ同瀬を視認でき、また、GPSを活用することで同瀬との相対位置を十分に把握できることから、平素単独操業による漁場との往復航の際、同瀬を船首目標として進行し、同瀬を確認したのち、同瀬の南あるいは北側を航過して目的地に向かっていた。
A受審人は、帰航中B受審人に漁獲物選別作業を行わせるため、航海灯のほかに操舵室前方甲板上に明るい作業灯を、点灯して同人に同作業を行わせていたところ、発進後間もなく同人が不慣れで選別作業に手間取っているのを認め、定めた針路が帆上ノ瀬に向首する状況で同人に手動操舵を任せて自ら同作業に当たることとしたが、同瀬が極めて狭い範囲の岩礁なので無難に航過できるものと思い、転針して同瀬を十分に隔てて航過できる針路を選定することなく、同針路のまま同人と操舵を交替して作業灯を、点灯したまま続航した。
ところで、B受審人は、A受審人の義父で、自らも小型漁船を所有して専らいか一本釣り漁業に従事し、出漁しないときなど年に数回程度A受審人に依頼されて恕丸に乗船し、刺網漁場としていた海域には必ずしも精通していなかったが、帆上ノ瀬の存在については十分承知していた。
こうしてB受審人は、操舵を任されて続航し、04時48分半帆上ノ瀬が正船首1,000メートルのところとなり、なおも同瀬に向首接近する態勢であったが、任された針路を保持していれば大丈夫と思い、同瀬を十分に隔てて航過できるよう、GPSを活用するなどの針路の安全を確認することなく、甲板上に作業灯が点灯していたこともあってその後同瀬に著しく接近していることに気付かず、保針することのみに専念して進行中、04時50分伏瀬灯標から332度3.2海里の、帆上ノ瀬南端に原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は晴で風力3の南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
乗揚の結果、船首部を圧壊し、船底全般に一部亀裂を伴う凹損及び舵軸などに曲損をそれぞれ生じた。また、A、B両受審人が、それぞれ全治的1箇月の骨折等を負った。

(原因)
本件乗揚は、夜間、長崎県平戸島南方沖合漁場から黒島漁港に向け帰航中、針路の選定が不適切で、帆上ノ瀬に向首したまま進行したことによって発生したものである。
運航が適切でなかったのは、船長が帆上ノ瀬を十分に隔てる針路を選定しなかったことと、甲板員が針路の安全を確認しなかったこととによるものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、長崎県平戸漁場から黒島漁港に向かう途上に帆上ノ瀬が存在する海域を航行する場合、同瀬に向首したまま接近しないよう、同瀬を十分に隔てる針路を選定すべき注意義務があった。しかし、同人は、同瀬が極めて狭い範囲の岩礁なので無難に航過できるものと思い、同瀬を十分に隔てる針路を選定しなかった職務上の過失により、選別作業に当たったまま乗揚を招き、船首部圧壊並びにB受審人及び自身が骨折等の負傷を生じるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、長崎県平戸島南方沖合の漁場から黒島魚港に向かう途上に帆上ノ瀬が存在する海域を帰航中、A受審人から操舵を任された場合、同瀬を十分に隔てて航過できるよう針路の安全を確認すべき注意義務があった。しかし、同人は、任された針路を保持していれば大丈夫と思い、針路の安全を確認しなかった職務上の過失により、針路保持のみに専念したまま乗揚を招き、前示損傷並びに負傷を生じるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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