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1998年(平成10年)

平成10年函審第3号
    件名
漁船第五十三住吉丸乗揚事件

    事件区分
乗揚事件
    言渡年月日
平成10年5月22日

    審判庁区分
地方海難審判庁
函館地方海難審判庁

米田裕、大石義朗、大山繁樹
    理事官
千手末年

    受審人
A 職名:第五十三住吉丸船長 海技免状:五級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
船底外板全般、バルバスバウ、船底キール及び船尾左舷湾曲部船側外板などに凹損、魚群探知機の送受波器を損壊

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件乗揚は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年9月16日01時30分
北海道恵山岬東岸
2 船舶の要目
船種船名 漁船第五十三住吉丸
総トン数 49.99トン
全長 28.90メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 330キロワット
3 事実の経過
第五十三住吉丸(以下「住吉丸」という。)は、専らいか一本釣り漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか4人が乗り組み、操業の目的をもって、平成9年9月2日17時00分函館港を発航し、翌3日03時ごろ北海道浦河沖に到着して操業を開始した。
住吉丸の8月ごろから10月中旬にかけての北海道東岸沖での操業は、昼夜連続して24時間体制で行うもので、1回当たりの出漁日数は10日ないし14日であり、操業中、A受審人は、船橋当直を一日平均5時間ばかりの仮眠をとりながら自ら一人で行っていたことから、操業後半になるとかなり疲労が蓄積した状態であった。
A受審人は、漁場到着以来連日操業を行い、越えて同月15日05時ごろ約5時間の仮眠から目覚めたあと、夜間の操業を終え、昼間の操業を開始して自ら船橋当直のもとに魚群探索と占位や潮のぼりのため機関を適宜使用しての釣りを繰り返し、19時00分台風19号が九州の南海上を北上中で北海道に接近する気配を見せていたことから、函館港に避難することとして操業を打ち切り、冷凍いか約45トンを載せ、船首1.8メートル船尾3.0メートルの喫水をもって、静内灯台から211度(真方位、以下同じ。)6.7海里の地点を発し、帰航の途に就いた。
A受審人は、西寄りの風波があったのでやや陸岸寄りに航行することとし、漁場発進と同時に針路を260度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて9.0ノットの対地速力で、いつものように単独で船橋当直に就いて西航した。
21時33分A受審人は、針路を242度に転じ、更に翌16日00時11分恵山岬灯台から030度12.2海里の地点に達したとき、レーダーで恵山岬を見て同灯台に向く210度に転じ、操舵室左舷側の椅子に腰掛け、左舷側壁に背をもたせ掛けながら進行して間もなく、同時20分ごろ連日の操業や長時間船橋当直を続けたことによる疲れから急に眠気を覚えた。
しかし、A受審人は、恵山岬近くにまで達したので目的港まで何とか我慢できるものと思い、操業の後片付けをしたあと21時ごろから休息していた甲板員を昇橋させて2人当直とすることや椅子から立ち上がって外気に当たったりするなどの居眠り運航を防止する措置を何らとることなく、椅子に腰掛けたまま当直を続けているうちにいつしか居眠りに陥った。
こうして、住吉丸は、00時52分予定していた転針地点の恵山岬灯台から6海里手前の地点に到達したが、A受審人が居眠りに陥ったまま予定の転針がなされずに続航中、01時30分恵山岬灯台から029度600メートルの恵山岬東岸の浅礁に、原針路、原速力のまま乗り揚げた。
当時、天候は曇で風力4の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
A受審人は、衝撃で目覚め、機関を直ちに停止したあと、自力による離礁は困難と判断して住吉丸と同様に台風避難のため函館港へ向かっていた僚船2隻に救助を要請、その支援のもとに離礁を試みたところ、02時40分離礁に成功し、自力航行して椴法華港に入港した。
乗揚の結果、船底外板全般、バルバスバウ、船底キール及び船尾左舷側湾曲部船側外板などに凹損を生じ、魚群探知機の送受波器を損壊したが、のち修理された。 

(原因)
本件乗揚は、夜間、台風避難のため漁場から函館港に向けて恵山岬北東方沖合を航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、予定した転針が行われず、同岬東岸の浅礁に向けて進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、台風避難のため漁場から函館港に向けて恵山岬北東方沖合を椅子に座ったまま単独で船橋当直に就いて航行中、連日の操業の疲れと長時間の連続した船橋当直の疲れから眠気を覚えた場合、そのまま当直を続けると居眠りに陥るおそれがあったのであるから、休息中の甲板員を昇橋させて2人当直とすることや椅子から立ち上がって外気に当たったりするなどの居眠り運航を防止する措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、恵山岬近くにまで達したので目的港まで何とか我慢できるものと思い、居眠り運航を防止する措置を何らとらなかった職務上の過失により、居眠りに陥って予定の転針がなされずに乗り揚げを招き、船底外板全般及び船尾左舷船側外板などに凹損並びに魚群探知機の送受波器に損壊を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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