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1998年(平成10年)

平成10年長審第39号
    件名
漁船松勇丸プレジャーボートゆうずる衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月25日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、安部雅生、坂爪靖
    理事官
山田豊三郎

    受審人
A 職名:松勇丸船長 海技免状:一級小型船船舶操縦士
B 職名:ゆうずる船長 海技免状:四級小型船舶操縦士
    指定海難関係人

    損害
松勇丸…船首から船尾にかけての船底に擦過傷
ゆうずる…船体中央部で切断されて全損

    原因
松勇丸…見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守
ゆうずる…灯火・形象物不表示(錨泊中)、船員の常務(衝突回避措置)不遵守

    主文
本件衝突は、松勇丸が、見張り不十分で、白色点滅灯を点灯したゆうずるを避けるための措置をとらなかったことと、ゆうずるが、錨泊中を示す適切な灯火を表示しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Bを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年7月20日20時30分
長崎県五島列島久賀島北岸沖合
2 船舶の要目
船種船名 漁船松勇丸 プレジャーボートゆうずる
総トン数 4.9トン
登録長 11.78メートル 4.94メートル
全長 13.65メートル 7メートル未満
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 279キロワット 18キロワット
3 事実の経過
松勇丸は、一本釣り漁業などに従事するFRP製漁船で、長崎県細石流漁港を基地とし、A受審人が1人で乗り組み、通常夕刻出漁しては早朝帰航するといういさき一本釣り漁を五島列島久賀島周辺で行っていた。
A受審人は、平成9年7月20日06時ごろ操業を終えて帰宅し、少し仮眠をとって海の会と称する行事に参加したのち、ほほ満月であったために漁が思わしくないので出漁を見合わせ、自宅で休息していたところ、同行事に参加して連絡船の最終便に乗り遅れた高校生4人を五島列島福江島まで送ることとなり、松勇丸に1人で乗り組み、同高校生3人を前部甲板上に、1人を操舵室後方にそれぞれ乗せ、船首0.70メートル船尾1.05メートルの喫水をもって、20時25分細石流漁港を発し、久賀島と音無瀬間を通航するつもりで同県戸岐漁港に向かった。
ところで、久賀島と音無瀬間の水道は、可航幅が250メートルばかりで狭く、貨物船などの通航はなかったものの、小型の漁船などが頻繁に往来し、音無瀬周囲は、プレジャーボートなどが釣りをするために錨泊していることが日常的にあり、全長7メートル未満の船舶であっても、夜間錨泊する際は、錨泊中を示す適切な灯火を表示しなければならないところであった。
発航後、A受審人は、船体中央部からやや船尾寄りに設けた操舵室で、高さ約50センチメートルの台の上に立って天窓から首を出し、0.5海里レンジとしたレーダーの画面を時折操舵室内をのぞき込むようにして見ながら見張りに当たり、徐々に増速して手動操舵により進行した。
20時28分少し前A受審人は、久賀島音無瀬灯標(以下「音無瀬灯標」という。)から125度(真方位、以下同じ。)1,140メートルの地点に達したとき、針路を316度に定め、機関をほぼ全速力前進にかけて16.0ノットの対地速力で続航していたところ、左舷後方の山陰に既に月が出て空がうっすら明るい状況下、細石流漁港北方に存在する黒瀬沖合から同瀬北西方に設置された定置網の沖合にかけて帯状に点在するレーダー映像を認め、これが生簀(いけす)の浮きなどに使用する長さ約1メートルで白色の発泡スチロールを主とする多数の漂流物であることを視認し、同漂流物の沖側を通航するつもりで進行した。
20時29分少し過ぎA受審人は、音無瀬灯標から105度440メートルの地点に達し、久賀島と音無瀬間の水道に向けて針路を268度に転じたとき、正船首400メートルのところにゆうずるの点灯した白色点滅灯を視認でき、これを錨泊中の船舶とは判別できなかったものの、同船をレーダーでも認めることができ、その後同点滅灯に向首して同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、0.5海里レンジのままとしたレーダー画面を一瞥(いちべつ)したところ、漂流物のほかに気付くものがなかったので、前路に他船はいないものと思い、レンジを変えてレーダーを活用するなどの周囲の見張りを十分に行うことなく、ゆうずるの点灯していた白色点滅灯に気付かないまま、左舷側30ないし50メートルに替わした漂流物を気にしながら続航した。
20時30分少し前A受審人は、正船首100メートルのところに懐中電灯の白色灯が左右に振られたものの、これにも気付かないでいたところ、前部甲板上で腰掛けていた高校生3人が何やら叫び声をあげたので、初めて船首至近に船影を認め、急ぎクラッチを切ったが、及ばず、20時30分音無瀬灯標から180度120メートルの地点において、松勇丸は、原針路、原速力のまま、その船首がゆうずるの右舷中央部に前方から88度の角度をもって衝突し、その船体を乗り切った。
当時、天候は晴で風力2の南南西風が吹き、視界は良く、潮候は上げ潮の末期で、日没時刻は19時31分月出時刻は19時27分で月齢が15.2日であった。
また、ゆうずるは、日没から日出までの間の航行を禁じられた船外機付きのFRP製プレジャーボートで、B受審人が1人で乗り組み、錨泊して夜通しいさき釣りを行う目的で、船首0.12メートル船尾0.20メートルの喫水をもって、同20日16時00分同県水之浦漁港を発し、昼間度々行ったことがある音無瀬付近の釣り場に向かった。
ところで、ゆうずるは、船体中央部に高さ約1.5メートルの木製丸棒を立て、その先端に株式会社ゼニライト製のポリライト-3型と称し、光達距離2キロメートル3秒毎に0.3秒間1閃する白色点滅灯を取り付けたほか、懐中電灯を備えていたが、錨泊中を示す適切な灯火を備えていなかった。
16時40分ごろB受審人は、水深約20メートルの前示衝突地点に至り、船首と船尾からそれぞれ4爪錨を投じ、直径12ミリメートルのナイロンロープの錨索を船首から約30メートル船尾から約40メートルそれぞれ延出し、自船のほかに周囲に錨泊船がいない状況下、船首を000度に向け、夜が明けてから帰航するつもりで釣りを始めた。
その後B受審人は、日没となったが、錨泊中を示す適切な灯火を表示せずに前示白色点滅灯のみを点灯し、船体中央部に腰掛けて左舷側から竿を出して釣りを続けた。
20時29分少し過ぎB受審人は、松勇丸の機関音に気付いて後方を振り向いたとき、右舷ほぼ正横400メートルのところに、同船のマスト灯及び両舷灯を認め、その後同船が衝突のおそれがある態勢で自船に向首接近する状況となったが、そのうち同船が白色点滅灯に気付いて自船を避けてくれるものと思い、錨索を解き放って移動するなどの衝突を避けるための措置を速やかにとることなく、同船の動向を監視中、同時30分少し前同船が100メートルに接近したときようやく異常に気付き、懐中電灯を点灯して同船に向けて左右に振ってみたものの、なおも同船が約10メートルまで迫り、危険を感じて右舷船首方海中に飛び込んだ直後、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、松勇丸は、船首から船尾にかけての船底に擦過陽を生じたが修繕を要せず、ゆうずるは、船体中央部で切断されて全損となり、海中に飛び込んだB受審人は、松勇丸に救助された。

(原因)
本件衝突は、夜間、五島列島久賀島北岸と音無瀬間のプレジャーボートが釣りをしたり、漁船が通航したりする水道において、松勇丸が、見張り不十分で、白色点滅灯を点灯したゆうずるを避けるための措置をとらなかったことと、ゆうずるが、錨泊中を示す適切な灯火を表示しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、夜間、五島列島久賀島北岸と音無瀬間の水道において、プレジャーボートなどが錨泊して釣りをしていることがある音無瀬南側の近くを航行する場合、他船が前路に停留しているやも知れなかったから、レンジを変えてレーダーを活用するなどの周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、レーダー画面を一瞥して左舷側に認めた漂流物のほかに何も気付くものがなかったことから、前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ゆうずるの点灯していた白色点滅灯に気付かないで、同船を避けるための措置をとることができずに衝突を招き、松勇丸の船底に擦過傷を生じ、ゆうずるを全損させるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、漁船などが通航する五島列島久賀島と音無瀬間の水道において錨泊していさき釣り中、自船に向首接近する他船を認めた場合、錨泊中を示す適切な灯火を表示していなかったから、錨索を解き放って移動するなどの衝突を避けるための措置を速やかにとるべき注意義務があった。しかし、同人は、接近する他船がそのうち自船の白色点滅灯に気付いて自船を避けてくれるものと思い、衝突を避けるための措置を速やかにとらなかった職務上の過失により、前示損傷等を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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