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1998年(平成10年)

平成10年長審第26号
    件名
漁船第八十六祐生丸防波堤衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月18日

    審判庁区分
地方海難審判庁
長崎地方海難審判庁

保田稔、安部雅生、原清澄
    理事官
小須田敏

    受審人
A 職名:第八十六祐生丸船長 海技免状:四級海技士(航海)(履歴限定)
    指定海難関係人

    損害
左舷中央部のブルワーク及び外板並びに機関室内パイプ類にそれぞれ損傷、西防波堤南西端を圧壊

    原因
潮流に対する配慮不十分

    主文
本件防波堤衝突は、潮流に対する配慮が不十分であったことによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年12月11日07時20分
長崎県田平港
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八十六祐生丸
総トン数 216トン
登録長 40.46メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 735キロワット
3 事実の経過
第八十六佑生丸(以下「佑生丸」という。)は、大中型旋網漁業船団付属の鋼製運搬船で、A受審人ほか6人が乗り組み、フィリピン共和国の漁業研修生2人を乗せ、福岡県博多港において漁獲物の水揚げを終えたのち、船団が操業する大韓民国済州島南方沖合の漁場に向かう途中に長崎県田平港に寄せて氷を積込む目的で、船首2.20メートル船尾4.00メートルの喫水をもって、平成8年12月11日03時20分博多港を発し、田平港に向かった。
ところで、田平港は、平戸瀬戸に架かる平戸大橋の北方に位置し、大田助瀬灯標から107度(真方位、以下同じ。)600メートルばかりの陸岸を基点として、これから322度方向に190メートルばかり延びる南防波堤と、同灯標から083度390メートルばかりの地点を突端として345度方向に陸岸付近まで延びる、築造中で外観がほぼ完成した状態の防波堤(西)(以下「西防波堤」という。)があり、両防波堤間の幅は、約100メートルとなっていた。
A受審人は、発航時から1人で船橋当直に当たって手動操舵で進行し、機関を全速力前進にかけて11.5ノットの対水速力とし、九州北岸沿いを西行したのち、平戸瀬戸西水道に入り、07時08分広瀬導流堤灯台から270度(真方位、以下同じ。)200メートルの地点に達したとき、針路を180度に定め、折からの潮流に抗して約8ノットの対地速力とし、南風埼と並航する少し前から機関を徐々に減速して続航した。
07時13分半A受審人は、大田助瀬灯標から326度745メートルの地点に達したとき、乗組員を入港配置に就かせ、針路を田平港防波堤間の出入口付近に向く127度に転じ、真針路120度及び5.0ノットの対地速力となって進行中、北上する他船を認めたものの、同船と右舷を対して互いに航過するつもりで同針路のまま続航した。
07時17分A受審人は、大田助瀬灯標から022度350メートルの地点で、北上する他船と互いに右舷を対して航過し、そのまま進行すると西防波堤に著しく接近する状況となったが、たいした潮流ではないので大丈夫と思い、圧流の程度を勘案するなど、潮流に対する配慮を十分に行うことなく、態勢を整えずに同針路のまま続航した。
07時18分半A受審人は、大田助瀬灯標から050度360メートルの地点に達し、西防波堤に50メートルばかりまで接近したとき、ようやく同防波堤に沿う165度ばかりの針路に転じて進行したものの、同時19分半なおも同防波堤に接近したので右舵一杯とし、船首が10度ばかり右転したとき、船尾配置の乗組員から左舷船尾が同防波堤に衝突する旨の報告を受け、針路を戻したところ、同時20分少し前西防波堤の南西端至近まで接近したので、キックを利用して同端を替わそうと左舵一杯としたが及ばず、07時20分大田助瀬灯標から083度390メートルの地点で、船首が120度に向いたとき、原速力のまま、左舷中央部外板が西防波堤南西端部と船尾から45度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候は上げ潮の末期で付近には約3.5ノットの北北西流があり、日出時刻は07時14分で視界は良好であった。
衝突の結果、左舷中央部のブルワーク及び外板並びに機関室内パイプ類にそれぞれ損傷を生じ、また、西防波堤南西端を圧壊したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件防波堤衝突は、強い北北西流時の平戸瀬戸において、田平港防波堤間の出入口に向けて入航する際、潮流に対する配慮が不十分で、同港西防波堤に著しく接近し、同防波堤南西端に向けて圧流されたことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、強い北北西流時の平戸瀬戸において、田平港防波堤間の出入口に向けて入航中、北上する他船を認めて互いに右舷を対して航過したため、西防波堤に接近した態勢で同港出入口に向かう状況となった場合、更に同防波堤に接近しないよう、圧流の程度を勘案するなどの潮流に対する配慮を十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、たいした潮流はないので大丈夫と思い、潮流に対する配慮を十分に行わなかった職務上の過失により、同出入口に向けて不十分な態勢のまま進行し、圧流されて西防波堤との衝突を招き、左舷中央部のブルワーク及び外板並びに機関室内パイプ類に損傷を、また、西防波堤南西端に圧壊をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。






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