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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年9月14日19時50分 長崎県平戸瀬戸 2 船舶の要目 船種船名
貨物船第八龍王丸 総トン数 199トン 全長 57.60メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 588キロワット 船種船名 押船玉江丸 はしけ玉江 総トン数
99.99トン 全長 21.20メートル
53.00メートル 幅 16.00メートル 深さ 4.70メートル 機関の種類
ディーゼル機関 出力 514キロワット 3 事実の経過 第八龍王丸(以下「龍王丸」という。)は、航行区域を沿海区域とする鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、鋼材579トンを積載し、船首2.20メートル船尾3.40メートルの喫水をもって、平成8年9月13日22時45分広島県福山港を発し、長崎県平戸瀬戸経由で同県長崎港に向かった。 ところで、平戸瀬戸は、北松浦郡田平町と平戸島との間に位置し、南北に出入口のある湾曲した水道で、その北口には中央部に広瀬があって東水道と西水道とに2分され、西水道の可航幅が約300メートルあり、行き会う船舶は互いにその進路を同水道の右側端に寄せて航過することができる水域であった。また、社団法人西部海難防止協会は、海上保安庁の指導に基づき、西水道を南下する船舶に対しては広瀬導流堤灯台を0.10海里離し、北上する船に対しては二目照射灯を0.25海里離して航行するよう指導していた。 翌14日19時46分少し過ぎA受審人は、二目照射灯から050度(真方位、以下同じ。)650メートルの地点に達したとき、針路を190度に定めて手動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの強潮流に抗して5.6ノットの対地速力で、適宜当て舵を取りながら進行し、同時47分少し過ぎ同照射灯から061度540メートルの地点に達したとき、左舷船首11度1,400メートルばかりに、平戸瀬戸を北上中の玉江丸被押はしけ玉江(以下「押船列」という。)の白、白、緑3灯を初認し、自船が北上中に反航船と出会ったときにはいつも東水道を航行するようにしていたので、押船列も牛ヶ首灯浮標を右舷側に見て航過したあと右転し、東水道に向かうものと思い、原針路を保ったまま続航した。 19時48分少し前A受審人は、二目照射灯から068度500メートルの地点に達したとき、その方位に変化のないまま、1,150メートルまで接近した押船列を認める状況となり、その後、押船列が牛ヶ首灯浮標に並航したあとも針路を右に転じないまま直進するのに気付き、押船列と互いに方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近する状況となったが、そのうち押船列が自船と広瀬の間に向首する針路に転じるものと思い、速やかに警告信号を行なって避航を促すことなく続航した。 龍王丸は、原針路、原速力のまま進行中、19時49分半押船列と著しく接近する状況となり、A受審人が機関を極微速力前進に減じ、続いて左舵一杯としたが、及ばず、19時50分広瀬導流堤灯台から299.5度170メートルの地点において、折からの強潮流の影響で217度を向いた船首部が押船列の玉江の右舷船尾部に、前方から55度の角度をもって衝突した。 当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、潮侯は上げ潮の末期で、衝突地点付近には約4.4ノットの北流があった。 また、玉江丸は、航行区域を沿海区域とする鋼製引船兼押船で、B受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首0.40メートル船尾1.0メートルの喫水となった被押土砂運搬船玉江の船尾部に自船を嵌合(かんごう)させ、海砂採取の目的で、船首0.70メートル船尾2.00メートルの喫水をもって、同日10時15分長崎県南高来郡西有家町須川を発し、同県壱岐郡長島西方沖合に向かった。 19時47分少し前B受審人は、南風埼灯台から286度110メートルの地点に達したとき、針路を355度に定めて手動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの強潮流に乗じて11.5ノットの対地速力で、適宜当て舵を取りながら進行した。 19時48分少し前B受審人は、広瀬導流堤灯台から186度720メートルの地点に達したとき、右舷船首5度1,150メートルのところに白、白、紅3灯を点灯して南下する龍王丸を視認することができたものの、これに気付かず続航し、同時48分少し過ぎ同方位880メートルのところに同船の白、紅2灯を初めて認め、その後、龍王丸と互いに方位が変わらず、衝突のおそれがある態勢で接近したが、同船と広瀬の間が狭く見えたうえ、自船の速力が早くて同船の前路を航過できるものと思い、同船の前路を斜航して互いに右舷を対して替わそうとし、速やかに狭い水道の右側端に寄せる針路に転じないまま、同船にサーチライトを2回ばかり照射して続航した。 押船列は、原針路、原速力のまま進行中、19時50分わずか前B受審人が右舷方至近に迫った龍王丸を認め、衝突の危険を感じて機関を全速力後進にかけたが、及ばず、折からの強潮流の影響で342度方向を向いた状態で、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、龍王丸は、船首部上端に凹傷及び球状船首に亀(き)裂を、押船列は、玉江の右舷船尾外板に凹傷及び亀裂をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。
(原因) 本件衝突は、夜間、長崎県平戸瀬戸において、押船列が狭い水道の右側端に寄せて航行しなかったばかりか、狭い水道を斜航したことによって発生したが、龍王丸が、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) B受審人は、夜間、長崎県平戸瀬戸において、折からの強潮流に乗じて北上中、前路に南下中の他船を視認した場合、互いに左舷を対して航過できるよう、速やかに狭い水道の右側端に寄せる針路に転じるべき注意義務があった。しかるに、同人は、他船と広瀬の間が狭く見えたうえ、自船の速力が早くて同船の前路を航過できるものと思い、同船の前路を斜航して互いに右舷を対して替わそうとし、速やかに右側端に寄せる針路に転じなかった職務上の過失により、他船の前路を横断しようと原針路のまま斜航して衝突を招き、玉江の右舷船尾部に凹傷を、龍王丸の船首部に凹傷及び亀裂を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の四級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。 A受審人は、夜間、長崎県平戸瀬戸において、折からの強潮流に抗して南下中、前路に北上中の他船の白、白、緑3灯を認め、著しく接近する状況となった場合、互いに左舷を対して航過できるよう、速やかに警告信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は同船が自船と広瀬の間を航行して行くものと思い、速やかに警告信号を行わなかった職務上の過失により、なんらの措置をとらないまま進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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