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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成9年3月21日06時30分 福岡県倉良瀬戸東口 2 船舶の要目 船種船名 漁船日生丸
漁船荒神丸 総トン数 6.6トン 1.92トン 登録長 12.90メートル 6.75メートル 機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関 漁船法馬力数 120 18 3 事実の経過 日生丸は、一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人が同人の父親で、甲板員のB指定海難関係人と2人で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、平成9年3月21日06時10分福岡県鐘崎漁港を発し、倉良瀬戸北方の漁場に向かった。 A受審人は、06時20分倉良瀬灯台から149度(真方位、以下同じ。)1.8海里の地点に達したとき、針路を320度に定め、機関を全速力前進にかけて13.0ノットの対地速力で、手動操舵により進行した。 ところで、日生丸は、10.0ノット以上の速力で航走すると船首が浮上して正船首から両舷各25度の範囲に死角を生じ、更に船首マストの後方に甲板上からの高さ1.0メートル船尾方向への長さ2.5メートルの波避け用のオーニングを設置していたため、船首方が見えにくい構造となっており、平素、操船者は、操舵室天井の上部に設備された全周が見渡せる見張り用ののぞき窓を利用し、操舵室の椅子(いす)の上に立つなどして同窓から周囲の見張りを行っていた。 06時27分少し過ぎA受審人は、倉良瀬灯台から195度670メートルの地点に達したとき、尿意を催したことから当直をB指定海難関係人に行わせることとしたが、同指定海難関係人が長年の操船経験があるので大丈夫と思い、船首方の死角を補う十分な見張りを行うよう指示することなく、当直を交替した。 当直を交替したB指定海難関係人は、舵輪の後方に立って操舵に当たり、06時28分倉良瀬灯台から221度540メートルの地点に達したとき、針路を倉良瀬灯台の北北西方0.7海里にある魚礁に向く350度に転じて北上した。 転針したころB指定海難関係人は、正船首880メートルのところに漂泊して揚縄中の荒神丸を視認でき、その後同船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況にあったが、操舵室天井上部ののぞき窓を利用するなど、船首の死角を補う十分な見張りを行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく続航した。 こうして、B指定海難関係人は、同じ針路で北上中、06時30分倉良瀬灯台から311度680メートルの地点において、日生丸は、原針路、原速力のまま、その船首が荒神丸の右舷船尾部に後方から80度の角度で衝突した。 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は上げ潮の末期で、日出は06時21分であった。 また、荒神丸は、音響信号設備のないFRP製漁船で、C受審人が1人で乗り組み、あらかぶ延(はえ)縄漁業の目的で、船首0.3メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日03時30分鐘崎漁港を発し、倉良瀬戸北口の漁場に向かった。 04時00分C受審人は、倉良瀬灯台南方の漁場に至り、甲板上からの高さ4メートルの船首部マストの頂部に黄色回転灯を,点灯し、更にその上部に高さ1メートルの旗竿(さお)を取り付けて紅色の旗を掲げて投縄を開始し、その後北東方に移動して400メートルないし600メートルの3本の延縄を投入したのち、06時00分倉良瀬灯台の北西方に投じていた延縄に戻り、船体中央部の操舵席囲いの右舷側に設置されだ縄取りウインチの後方に前方を向いて座り、同ウインチと操舵席囲い右舷側壁に設置された機関操作台の機関操作ハンドルを適宜使用しながら揚縄作業を開始した。 C受審人は、06時28分前示衝突地点に至り、船首を070度に向けて機関を中立とし、漂泊して揚縄中、右舷船尾80度880メートルのところに日生丸を視認でき、その後同船が自船に向首したまま衝突のおそれがある態勢で接近するのを認め得る状況にあったが、揚縄作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、更に日生丸が接近しても機関を使用するなどして同船との衝突を避けるための措置をとることなく揚縄中、荒神丸は、船首を070度に向けたまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、日生丸は、船首に擦過傷を生じ、荒神丸は沈没し、海中に投げ出されたC受審人は、日生丸に救助されたが頭部打撲、頭頂部裂傷を負った。
(原因) 本件衝突は、福岡県倉良瀬戸において、漁場に向けて北上中の日生丸が、見張り不十分で、漂泊中の荒神丸を避けなかったことによって発生したが、荒神丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。 日生丸の運航が適切でなかったのは、船長が当直を甲板員に行わせる際、見張りを十分に行うよう指示しなかったことと、同甲板員が見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
(受審人等の所為) A受審人は、福岡県倉良瀬戸において、沖合漁場に向けて北上中、船橋を離れるために当直を甲板員に行わせる場合、船首方の死角を補う十分な見張りを行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、父親である当直の甲板員が長年の操船経験があるので大丈夫と思い、船首方の死角を補う十分な見張りを行うよう指示しなかった職務上の過失により、同甲板員が十分な見張りを行わず、前路で漂泊中の荒神丸を避けないまま進行して同船との衝突を招き、日生丸の船首に擦過傷を生じさせ、荒神丸を沈没させ、C受審人に頭部打撲、頭頂部裂傷を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 C受審人は、倉良瀬戸において、漂泊して揚縄する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、揚縄作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する日生丸に気付かず、同船に対して避航を促すための有効な音響による信号を行わず、機関を使用するなどして同船との衝突を避けるための措置をとらないまま揚縄を続けて日生丸との衝突を招き、前示の損傷及び沈没を生じさせ、自らも負傷するに至った。 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B指定海難関係人が、倉良瀬戸において、単独で船橋当直に当たり、沖合漁場に向けて北上する際、船首方の死角を補う十分な見張りを行わなかったことは、本件発生の原因となる。B指定海難関係人に対しては、勧告するまでもない。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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