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1998年(平成10年)

平成10年門審第73号
    件名
貨物船第二十八高神丸防潮堤衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月26日

    審判庁区分
地方海難審判庁
門司地方海難審判庁

伊藤實、清水正男、西山烝一
    理事官
喜多保

    受審人
A 職名:第二十八高伸丸船長 海技免状:三級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
右舷船首部外板に破口、同舷前部外板に擦過傷、防潮堤は、約200メートルにわたり、コンクリートブロックに損壊及び亀裂、上部の手摺りなどの施設に損傷

    原因
居眠り運航防止措置不十分

    主文
本件防潮堤衝突は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
受審人Aの三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成10年5月30日06時15分
関門港小倉区
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十八高神丸
総トン数 657トン
全長 70.32メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,323キロワット
3 事実の経過
第二十八高神丸(以下「高神丸」という。)は、船首部に旋回式ジブクレーンを備え、船首部及び船橋前に採砂管などの揚降用鳥居形デリックポストを設置した、船尾船橋型砂刷採取運搬船で、A受審人ほか4人が乗り組み、空倉のまま、船首2.0メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成10年5月30日05時05分関門港田野浦区太刀浦ふ頭26号岸壁を発し、関門海峡を経由して山口県蓋井島東方沖合の海砂採取地に向かった。
ところで、A受審人は、海砂を顧客の注文に応じて蓋井島勅沖合で採取し、近くの指定する港に運搬して荷揚げする、ほとんどが日帰りの航海で、船橋当直を一等航海士と2人で、航海時間を二分して交互に行う単独当直制を採り、前日、05時太刀浦を出て08時山口県秋穂港に着く間、一等航海士が船橋当直に当たり、その間に休息したものの、その後同港で荷役を行い、13時同港から同受審人が操船に当たって15時30分太刀浦に戻り、クレーン室のクーラーの点検作業の手配などに当たったのち、18時30分上陸し、パチンコ遊技や飲食などをして、30日の出航時刻直前の04時30分ごろ帰船し、長時間睡眠をとらないまま出航したので、睡眠不足でやや疲労気味の体調であった。
A受審人は、右舷横着けの岸壁を離れたのち、05時11分錨鎖3節の左舷錨を揚げ、単独で手動操舵に就いて見張りに当たり、機関を5.0ノットの微速力前進にかけ、同時16分太刀浦ふ頭の北方400メートルの地点で、7.0ノットの半速力前進に増速して関門航路に向かい、同時31分半前田沖灯漂付近で10.0ノットの全速力前進にかけたが、折から次第に強くなる東に向かう潮流に抗し、9.5ノットの対地速力となって関門航路の右側端に沿って進行した。
05時43分A受審人は、関門橋下を通航し、同時51分巌流島灯台から057度(真方位、以下同じ。)400メートルの地点に差し掛かったとき、通航船が少なくなり、注意を払っていた関門港門司区西海岸ふ頭沖の航路内の沈船地点を通過したこともあって、それまでの緊張していた気分が緩み、睡眠不足でやや疲労気味の体調であったことから眠気を感じたが、短時間で目的地に着けるから、居眠りすることはないものと思い、一等航海士や他の乗組員を呼んで二人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとることなく航行した。
A受審人は、彦島の山底ノ鼻灯台を航過し、06時02分半金ノ弦岬灯台から099度1,000メートルの地点に達したとき、次の転針予定地点としていた、関門航路第17号灯浮標(以下「第17号灯浮標」という。)を右舷正横50メートルに離すように、針路を265度に定めて自動操舵とし、全速力前進のまま、潮流に抗して1度ばかり左方に圧流されながら、8.5ノットの対地速力となって続航した。
定針後間もなくA受審人は、前方に他船を見掛けなかったことから、転針予定地点付近までの少しの間休憩することとし、船橋右舷後部のいすに腰掛けているうち、急に眠気を催したが、依然、二人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとることなく航行中、06時05分少し過ぎ金ノ弦岬灯台から130度340メートルの地点付近で、居眠りに陥った。
06時06分少し過ぎA受審人は、第17号灯浮標を右舷に並航する転針予定地点に至ったものの、居眠りしていてこれに気付かず、針路が転じられることなく、原針路、原速力のまま、小倉日明防潮堤(以下「防潮堤」という。)に向かって続航した。
防潮堤は、関門港小倉区の小倉日明東岸壁の東側から、062度方向に延出して築造された、長さ約300メートル幅約5メートルで、海面上の高さ2.2メートルのコンクリートブロック造りの堤防で、その先端に小倉日明防潮堤灯台が設けれられていたが、北九州市が、防潮堤の上部を舗装し、転落防止用の手摺(す)りや釣りスペースなどを設け、市民が魚釣りなどを楽しめるように、「日明・海峡釣り公園」としていた。
A受審人は、居眠り運航を続け、06時15分小倉日明除潮堤灯台から236度40メートルの防潮堤の南側に、高神丸は、原針路、原速力のまま、23度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の西風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、視界は良好であった。
衝突後、A受審人は、目覚めて機関を後進にかけ、高神丸が防潮堤から離れたのち、損害調査などの事後措置に当たった。
衝突の結果、高神丸は、右舷船首部外板に破口を、同舷前部外板に擦過傷を生じ、防潮堤は、その南側で、先端から基部に向かって40メートルのところから約200メートルにわたり、コンクリートブロックに損壊及び亀(き)裂を、上部の手摺りなどの施設に損傷を生じた。

(原因)
本件防潮堤衝突は、関門港関門航路を航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、転針予定地点で針路を転じないまま、同港小倉区の防潮堤に向かって進行したことによって発生したものである。

(受審人の所為)
A受審人は、単独で操舵と見張りに当たり、関門港田野浦区太刀浦ふ頭から山口県蓋井島東方沖合に向けて関門航路を航行中、眠気を催した場合、居眠り運航とならないよう、一等航海士や他の乗組員を呼んで二人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、短時間で目的地に着けるから、居眠りすることはないものと思い、一等航海士や他の乗組員を呼んで二人当直とするなど居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となって転針予定地点で針路が転じられないまま、防潮堤に向かって進行し、これに衝突する事故を招き、高神丸の右舷船首部に破口などを生じさせ、防潮堤の施設に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の三級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。

よって主文のとおり裁決する。






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