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(事実) 1 事件発生の年月日時刻及び場所 平成8年7月4日03時50分 唐津湾 2 船舶の要目 船種船名 漁船海福丸
プレジャーボートスイミィー 総トン数 14.33トン 登録長 14.90メートル 2.80メートル 機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関 出力
3キロワット 漁船法馬力数 90 3 事実の経過 海福丸は、二艘(そう)引網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成8年7月4日03時40分僚船と共に福岡県船越漁港を発し、小呂島東方沖合の漁場に向かった。 A受審人は、発航から単独で操舵と見張りに当たり、先行する5隻の僚船に続いて鷺ノ首沖合の水上岩を右舷方50メートルに見て航過し、03時46分、筑前ノー瀬灯標(以下「ノー瀬灯標」という。)から135度(真方位、以下同じ。)1.9海里の地点で針路を314度に定め、機関を全速力より少し落とした11.0ノットの対地速力にかけて、手動繰舵により進行した。 03時47分A受審人は、ノー瀬灯漂から135度1.7海里の地点に達したとき、正船首1,000メートルのところに錨泊しているスイミィーの白1灯を視認し得る状況であったが、それまで同海域では錨泊している船舶を見掛けなかったことから、前路に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行うことなく、スイミィーに気付かず、その後衝突のおそれのある態勢で接近したが転舵するなどして同船を避けずに続航した。 こうして、A受審人は、同一針路で北上中、03時50分ノー瀬灯標から135度2,100メートルの地点において、海福丸は、原針路、原速力のまま、その船首がスイミィーの左舷側後部に後方から64度の角度で衝突した。 当時、天侯は薄曇で風はほとんどなく、潮候は下げ潮の中央期であった。 また、スイミィーは、船外機を装備した、汽笛を装備しないFRP製プレジャーボートで、福岡県福岡市城南区片江のB受審人の自宅から乗用車に積まれて同県志摩町岐志の海岸に運ばれ、同受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日03時10分岐志捲西防波堤灯台から096度800メートルの前示海岸を発し、引津ノ浦沖合の沖ノ瀬の釣り場に向かった。 ところで、スイミィーは、夜間に航海するときには、その上部に白色全周灯を取り付けた高さ1メートルのマストを左舷側後部にボルトで取り付けて蓄電池によって点灯し、夜間の出航準備作業及び船内作業にはB受審人が装着したヘッドランプが使用されていたが、今回は同マストも同蓄電池も自宅に置き忘れられて搭載されていなかった。 B受審人の使用していたヘッドランプは、松下電池工業株式会社が製造したヘッドランプコードレスBF-179B-Y型と称する単3乾電池4個を用い、本体に取り付けられたベルトによって額部に装着して使用するもので、やや黄色がかった白色で250ルクスの照度を有し、2海里の光達距離を有する全周灯よりも光度は強いものの、照射範囲が狭い特徴があった。 B受審人は、発航前、自宅から海岸へ行く途中に電池を購入して交換した3個の同型ヘッドランプのうち、2個を予備としてスイミィーの甲板上に搭載した空のアイスボックスに格納し、残りの1個を被(かぶ)った帽子のつばを後ろ向きにした上から、その額部に正面を向けて装着して点灯し、発航したのち、白色全周灯を搭載していないことに気付いたが、沖合の釣り場に着くころには夜が明けることと、装着して点灯していたヘッドランプが白色全周灯に十分代るものと思い、引き返して夜明けを待つことなく、同ヘッドランプを航海灯の代わりにして進行し、03時37分ノー瀬灯標から119度1.3海里の地点に達したとき、ごみ等の浮遊物が帯状になった潮目に出会い、速力を落して浮遊物を避けながら続航した。 03時45分B受審人は、前示衝突地点で、浮遊していた縦横の長さ1メートルの漁網の切れ端が船外機のプロペラに絡んで同機が停止したので、重さ4キログラムの錨に長さ3メートルの錨鎖と長さ30メートルの錨索を取り付けて水深10メートルの海中に投入し、船首を250度に向けて錨泊し、同地点が他の船舶が通常航行する水域であることを知っていたものの、法定の白色全周灯を表示せず、ヘッドランプの明かりの下で船外機を取外し、船体中央部やや後方の位置に船尾方を向いて座り、取外した船外機を両足の上に置き、同乗者に周囲の見張りをさせて絡んだ漁網の取り外し作業を開始した。 B受審人は、漁網の切れ端の取り外し作業を開始したところ、前部で見張りに当たっていた同乗者から鷺ノ首方面から漁船が出てきた旨の報告を受け、連なって沖合に向かう漁船群を初認し、額部に装備したヘッドランプが漁船群に向くよう、顔を鷺ノ首方向に向け、ほぼ一直線に並ぶ5隻の漁船が自船の西方に向いていることを認めて、顔を鷺ノ首方向に向けたまま手さぐりで漁網の取外し作業を続けた。 03時47分B受審人は、左舷後方1,000メートルのところに海福丸の白、紅、緑3灯を初認し、同船に顔を向けてヘッドランプを照射したが、先行する5隻の漁船が無難に航過する態勢となったので、6隻目の海福丸も同ランプの明かりに気付いて避航してくれるものと思い、ヘッドランプば照射範囲が狭いことを考慮して更に十分な光力を示すことができるよう、搭載していた2個の予備ヘッドランプも同時に点灯して海福丸に向けて照射するなど、発光による注意喚起信号を行うことなく、同船の動静を見守った。 B受審人は03時50分少し前、自船に向首する海福丸が80メートルまで接近したので、救命胴衣に取り付けてあった笛を吹鳴したものの効なく、スイミィーは、船首を250度に向けたまま、前示のとおり衝突した。 衝突の結果、海福丸は、船首のFRP剥(はく)離を生じ、スイミィーは、左舷後部外板に破口を生じ、船外機が落下し、のち廃船処分とされ、海中に投げ出されたB受審人及び同乗者は海福丸に救助されが、B受審人が1年間の入院加療を要する左膝蓋骨骨折、左膝内側側副靱帯及び同半月板損傷等を、同乗者Cが右肩、両膝及び両下腿挫傷を負った。
(原因) 本件衝突は、夜間、唐津湾東部引津ノ浦沖合において、北上中の海福丸が、見張り不十分で、白灯を表示して錨泊中のスイミィーを避けなかったことによって発生したが、スイミィーが、法定灯火を掲げなかったばかりか、発光による注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為) A受審人は、夜間、漁場に向かうため、単独で操舵と見張りに当たり、唐津湾東部引津ノ浦沖合を北上する場合、前路で錨泊中の他船を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、それまで同海域では錨泊している船舶を見掛けなかったことから、前路に他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で白灯を表示して錨泊中のスイミィーに気付かず、同船を避けることなく進行して同船との衝突を沼き、海福丸の船首にFRP剥離を、スイミィーの左舷後部外板に破口を生じさせて船外機を落下させ、B受審人に1年間の入院加療を要する左膝蓋骨骨折、左膝内側側副靱帯及び同半月板損傷等を、C同乗者に右肩、両膝及び両下腿挫傷を負わせるに至った。 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。 B受審人は、夜間、唐津湾東部引津ノ浦沖合において、錨泊して船外機のプロペラに絡んだ漁網の切れ端を取り除く作業中、自船に向首して接近する海福丸を認めた場合、法定の白色全周灯に代えて表示していたヘッドランプは照射範囲が狭いことを考慮して更に十分な光力を示すことができるよう、搭載していた2個の予備ヘッドランプも同時に点灯して海福丸に向けて照射するなど、発光による注意喚起信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、先行する5隻の漁船が無難に航過する態勢となったので、6隻目の海福丸も同人が表示するヘッドランプの明かりに気付いて避航してくれるものと思い、発光による注意喚起信号を行うことなく同船との衝突を招き、前示の損傷び負傷を生じさせるに至った。 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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