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1998年(平成10年)

平成9年広審第86号
    件名
貨物船第一平成丸貨物船第五えびす丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月19日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

上野延之、釜谷奨一、織戸孝治
    理事官
田邉行夫

    受審人
A 職名:第一平成丸船長 海技免状:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:第五えびす丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
    指定海難関係人

    損害
平成丸…左舷後部外板凹損
えびす丸…左舷錨を海没、左舷船首部外板を凹損

    原因
平成丸、えびす丸…行会いの航法(右側通行)不遵守

    主文
本件衝突は、両船が、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある際、第一平成丸が、針路を右に転じなかったことと、第五えびす丸が、針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
受審人Aを戒告する。
受審人Cを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成8年1月12日22時00分
瀬戸内海二子瀬戸
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第一平成丸 貨物船第五えびす丸
総トン数 199トン 199トン
全長 57.15メートル 58.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 625キロワット 588キロワット
3 事実の経過
第一平成丸(以下「平成丸」という。)は、専ら九州及び瀬戸内海諸港間の輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、A受審人及びB指定海難関係人が乗り組み、鋼材640トンを積載し、船首2.7メートル船尾3.5メートルの喫水をもって、平成8年1月12日16時30分福山港を発し、長崎港に向かった。
A受審人は、船橋当直を自らとB指定海難関係人との単独4ないし5時間交替制とし、発航操船に引き続いて船橋当直に就き、日没とともに航行中の動力船が表示する灯火を点灯し、19時30分浮磯灯標の北方でB指定海難関係人に船橋当直を引き継ぐこととしたが、同人が無資格者であったものの、同当直の経験が長かったことから特に航行上の注意を与えるまでもないと思い、他船が接近した際の報告について指示することなく、降橋して自室で休息した。
B指定海難関係人は、単独の船橋当直に就き、21時48分クダコ島灯台から266度(真方位、以下同じ。)1,050メートルの地点で、針路を220度に定めて手動操舵とし、機関を9.7ノットの全速力前進にかけて進行した。
ところで、二子瀬戸は、愛媛県の二神島、上二子島及び下二子島の間にある、最狭の可航幅が約1.1海里の水道で、約200トンの内航船同士が行き会う際、通航に制約を受ける程の狭い水道ではなかった。
21時54分少し前B指定海難関係人は、クダコ島灯台から237度1.4海里の地点に達したとき、右舷船首13度2.0海里のところに第五えびす丸(以下「えびす丸」という。)の白、白2灯を初めて視認し、同時56分少し過ぎ根ナシ礁灯標から080度1.9海里の地点に達し、下二子島を右舷正横に見て徐々に右転を始めたころ、船首方1.2海里にえびす丸の灯火を認めて続航した。
21時57分B指定海難関係人は、根ナシ礁灯標から082度1.8海里の地点に達したとき、針路を239度に転じたところ、ほぼ正船首1.0海里にほとんど真向かいに行き会う態勢のえびす丸が表示する白、白、紅、緑4灯を視認し、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、A受審人から他船が接近した際の報告について指示を受けていなかったことから同人にこのことを報告しないまま進行した。
A受審人は、B指定海難関係人から他船が接近した際の報告を受けられず、自ら操船指揮を執ることができないで、左舷側を十分に離して通過できるよう針路を右に転じないまま続航した。
22時00分わずか前B指定海難関係人は、衝突の危険を感じて右舵一杯としたが及ばず、22時00分根ナシ礁灯標から。90度1.4海里の地点において、平成丸は、282度に向首したとき、原速力のまま、その左舷後部外板にえびす丸の船首が前方から40度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
また、えびす丸は、専ら九州、関西及び関東各諸港間の輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、C受審人ほか2人が乗り組み、耐火レンガ材料のクリンカー670トンを積載し、船首2.6メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、同日15時00宇部港を発し、愛知県蒲郡港に向かった。
C受審人は、日没とともに航行中の動力船が表示する灯火を、点灯し、20時45分沖家室島長瀬灯標南南西方2海里の沖合で、前直の甲板長と交替して船橋当直に就き、21時41分少し前大石灯標から142度1,300メートルの地点で、針路を052度に定め、機関を10.0ノットの全速力前進にかけ、自動操舵により進行した。
21時49分少し前C受審人は、根ナシ礁灯標から170度1.3海里の地点に達したとき、手動操舵に切り換えて針路を025度に転じ、同時51分同灯標から159度1.1海里の地点に達し、右舷船首22度2.9海里のところに平成丸の白、白、緑3灯を初めて視認し、同時55分同灯標から120度1,400メートル地点で、針路を愛媛県中島部屋ノ鼻北端に向く062度に転じて続航した。
21時57分C受審人は、根ナシ礁灯標から104度1.0海里の地点に達したとき、ほぼ正船首1.0海里にほとんど真向かいに行き会う態勢の平成丸が表示する白、白、紅、緑4灯を視認し、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近することを知ったが、いずれ同船が右転すると思い、左舷側を十分離して通過できるよう針路を右に転じないで進行中、船首至近に迫った同船を認め、右舵一杯としが及ばず、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、平成丸は左舷後部外板を凹損し、えびす丸は左舷錨を海没し、左舷船首部外板を凹損したが、のちいずれも修理された。

(原因)
本件衝突は、夜間、二子瀬戸において、南下する平成丸と北上するえびす丸とが、ほとんど真向かいに行き会い衝突のおそれがある際、平成丸が、えびす丸の左舷側を通過することができるよう針路を右に転じなかったことと、えびす丸が、平成丸の左舷側を通過することができるよう針路を右に転じなかったこととによって発生したものである。
平成丸の運航が適切でなかったのは、船長が降橋するに当たり、無資格の船橋当直者に対し、他船が接近した際の報告について指示しなかったことと、船橋当直者が同報告を船長にしなかったこととによるものである。

(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、二子瀬戸に向けて南下中、無資格者を単独で船橋当直に当たらせる場合、他船が接近した際には自ら操船指揮を執ることができるよう他船か接近した際の報告について指示すべき注意義務があった。ところが、同人は、船橋当直の経験が長かったことから特に航行上の注意を与えるまでもないと思い、指示しなかった職務上の過失により、船橋当直者から他船が接近した際の報告を受けられず、自ら操船指揮を執ることができないで、えびす丸との衝突を招き、平成丸の左舷後部外板に凹損、えびす丸の左舷錨を海没及び同船の左舷船首部外板に凹損を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
C受審人は、夜間、二子瀬戸において、ほとんど真向かいに行き会う平成丸の白、白、紅、緑4灯を視認し、衝突のおそれがある態勢で接近していることを知った場合、平成丸の左舷側を通過することができるよう針路を右に転ずべき注意義務があった。ところが、同人は、いずれ平成丸が右転すると思い、針路を右に転じなかった職務上の過失により、平成丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、二子瀬戸を単独で船橋当直中、ほぼ正船首にえびす丸の白、白、紅、緑4灯を視認して接近することを知った際、船長に報告しなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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