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1998年(平成10年)

平成9年広審第87号
    件名
漁業調査船第一鳥取丸プレジャーボートたま丸衝突事件

    事件区分
衝突事件
    言渡年月日
平成10年11月13日

    審判庁区分
地方海難審判庁
広島地方海難審判庁

織戸孝治、杉崎忠志、横須賀勇一
    理事官
川本豊

    受審人
A 職名:第一鳥取丸船長 海技免状:四級海技士(航海)
B 職名:第一鳥取丸機関長 海技免状:五級海技士(機関)(機関限定)
    指定海難関係人

    損害
鳥取丸…球状船首部に擦過傷
たま丸…圧壊してのち廃船

    原因
鳥取丸…機関操作不適切、操船・操機(行きあしの制御、投錨時機)不適切

    主文
本件衝突は、第一鳥取丸が、機関操作が不適切で、行きあしを制御できなかったことと、行きあしの制御ができなくなった際、投錨して行きあしを停止する等の措置をとらなかったこととによって発生したものである。
受審人Bを戒告する。
受審人Aを戒告する。
    理由
(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成9年3月21日09時10分
境港
2 船舶の要目
船種船名 漁業調査船第一鳥取丸 プレジャーボートたま丸
総トン数 199トン
全長 43.05メートル 7.01メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 1,103キロワット 73キロワット
3 事実の経過
(1) 第一鳥取丸(以下「鳥取丸」という。)の来歴
鳥取丸は、従業制限を第3種(国際航海)とし、漁業に関する試験、調査、指導又は取締業務に当たる目的をもって、平成9年1月7日新潟港で進水、同3月7日竣工した幅7.60メートル、深さ3.30メートルの長船首楼1層甲板型鋼製漁船で、同14日同港を回航のため発して、翌15日、鳥取県境港第2区の境港中野1号防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から162度(真方位、以下同じ。)420メートルの基地岸壁に到着して係留されていた。
(2) 鳥取丸の操船設備
鳥取丸は、通常の操船装置に加えて、海洋観測や離接岸操船に使用する目的で、CPP(可変ピッチプロペラ)、舵及びバウスラスタを一括して操縦することができるジョイスティック操船装置を装備しており、船橋中央の舵輪の側に設置してある操作ユニットのジョイスティック及び方位設定ダイヤルにより、船体の前後左右方向の平行移動及び旋回がそれぞれできるようになっていた。
しかしながら、ジョイスティックによる船体の左右方向の平行移動の実際では、初期船速や風などの外乱により真横への移動は困難で、基本操船として、船体の前後方向の移動量を修正しながら同スティックを操作する必要があった。また、通常操船とジョイスティック操船との切り替えは、操作ユニットの「選択キー」のオン・オフにより行うことができ、ジョイスティック操船中、オフにするとジョイスティック操船は中止され、CPP、バウスラスタ及び舵は、それぞれのコントローラで操作することができる状態に戻る仕組みとなっていた。
(3) 鳥取丸の推進機構
鳥取丸の推進装置は、主機関、推進クラッチ(以下「クラッチ」という。)、プロペラ軸及びCPP等からなっており、推進力を得るためには主機関を始動し、推進クラッチ嵌・脱切替レバー(以下「クラッチレバー」という。)を操作してクラッチを嵌合した後、CPPの翼角を操作するようになっていた。
また、クラッチ嵌合操作には、電気的インターロックが設けられており、(イ)CPP翼角規定値(後進翼角2度〜前進翼角2度)以内、(ロ)減速機潤滑油圧力正常、(ハ)船尾管冷却水流量正常、(二)主機関否自動停止の4条件が満足された場合にクラッチの嵌合が可能となり、一方、クラッチ脱操作には、インターロックは設けられておらずどのような状態にても「脱」にできる機構となっていた。
(4) 鳥取丸の主機関等遠隔操縦装置
鳥取丸は、主機関等の遠隔操縦装置として船橋内左舷側に「主機、CPP操縦、バウスラスタスタンド」(以下「操縦スタンド」という。)が設置され、同スタンド盤面上には手前左端に主機回転制御ダイヤル、その右方にクラッチレバーを挟んでCPP制御ダイヤルが、同レバーの上方に、ガバナレバー及びCPP変節スイッチを左右に挟んでCPPレバーが各々位置し、その他にバウスラスタコントロールパネル、各種指示計・表示灯が配置されていた。
前示各レバーは同一形状及び同一操作方法となっており、CPPレバーを反時計回りに捻じると後進翼角となり、クラッチレバーを同様に捻じるとクラッチが「脱」に切り替わる構造となっていた。
また、CPP変節スイッチにより、主機回転制御ダイヤル及びCPP制御ダイヤルで主機の回転及びCPPの翼角の制御を行う「フォロー」又は、ガバナレバー及びCPPレバーでその制御を行う「ノンフォロー」の切り替えができるようになっていた。
(5) 鳥取丸乗組員
A及びB両受審人は、先代の鳥取丸にそれぞれ船長、機関長として乗り組んでいたものであるが、同船の代替建造に伴って新造となった鳥取丸に引き続き船長、機関長として乗り組むこととなり、新潟港へ陸行にて赴き、回航に先立ち他の乗組員11人とともに同港でジョイスティック等の習熟訓練を実施した後、同港を発して境港に向かい、同港入航直前に美保湾でジョイスティック操船訓練を行った後、前示基地岸壁にジョイスティック操船により着岸した。
(6) 基地岸壁付近の状況
基地岸壁は、岸壁法線が087度、長さ約360メートルで、前面水域は、西側及び東側を岸壁及び波除堤に囲まれ、北方に開いたコの字形をしており、鳥取丸は、船首を波除堤の基部から50メートル西方のところに位置して、錨を使用しないで右舷横付け係留し、その船尾方に水産高校の練習船が着岸中で、また、波除堤には基部から順に小型船が十数隻係留されていた。
(7) 本件発生に至る経緯
鳥取丸は、A及びB両受審人ほか11人が乗り組み、境港沖合での海洋観測を兼ねた習熟運転の目的で、観測員等6人を乗船させ、船首2.1メートル船尾4.1メートルの喫水をもって、平成9年3月21日09時00分離岸操船を開始した。
離岸時A受審人は、ジョイスティック操船装置に次席二等航海士を、操縦スタンドに機関長を、その他の乗組員を前後部の出港配置にそれぞれ就け、ジョイスティック操船により離岸することとし、係留索を放したのち、左正横に移動するつもりでジョイスティックを左真横に倒したところ、外力の影響のため船首が岸壁法線より約10度左方に偏しほぼ078度を向首して左舷後方に移動を始め、船尾配置員から練習船に接近するとの報告を受け、ジョイスティックでは意のままに操船できないと思い、09時05分ごろ急遽、「ジョイスティック解除、機関手動」と令して操船方法をジョイスティック操船から通常操船に切り替えて微速力前進を令し、同時07分ごろ同針路を向首したまま基地岸壁前面水域に復したので、行きあしを止めるため微速力後進を令した。
一方、「ジョイスティック解除、機関手動」の号令を受けたB受審人は、ジョイスティック操船が正常作動せず従ってノンフォローにより機関を操作しなくてはならないと思い、次席二等航海士の切替操作によりフォローとなっていたCPP変節スイッチをノンフォローに切り替えて、微速力前進の指示でCPPレバーにより前進翼角2度に操作したが、その後の微速力後進の指示があったとき、同レバーであることを確かめることなく、後進翼角をとるつもりで、機関の操作が適切に行われず、上下に隣接するクラッチレバーを反時計回りに捻じったため、鳥取丸は、クラッチが「脱」になって、主機関とプロペラ軸との縁が切れたまま惰力前進を続けた。
B受審人は、船体が停止することなく波除堤に接近する状況になったこととA受審人のその後の再三の後進指示とにより慌てて、操縦スタンド盤面上の各スイッチ類の状態を確認しなかったので、クラッチが「脱」になっていることに気付かず、CPPレバーを操作して後進翼角約7度にとり、やがてクラッチが「脱」になっていることに気付き、クラッチレバーを操作してクラッチ嵌合を試みたが、新潟港での操船訓練中に受けたクラッチのインターロック機構を失念していたため嵌合できず、09時08分ごろA受審人に「後進がかかりません」と報告した。
A受審人は、再三の微速力後進の号令にもかかわらず、船体が停止せず行きあしを制御できなくなったが、速やかに投錨して行きあしを停止する等の措置をとらなかったので、鳥取丸は、惰力前進を続け、09時10分防波堤灯台から156度400メートルの地点で、原針路のままの同船の球状船首が、たま丸の船尾にほぼ真後ろから衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
また、たま丸は、専ら魚釣りに使用されているFRP製遊漁船で、無人のまま船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同年3月19日から衝突地点で、波除堤へ船首からロープを取り、船尾に錨を投入して同堤とほぼ直角に係留していたところ、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、鳥取丸は球状船首部に擦過傷を生じたのみであったが、本件後、CPPレバーと誤って操作することのないよう、クラッチレバーの模様替えを行って、レバーを引上げてから捻じるように操作方法を変更し、また、たま丸は圧壊してのち廃船となった。

(原因)
本件衝突は、鳥取丸が、境巷港内の狭い水域で離岸操船中、機関操作が不適切で、行きあしを制御できなかったことと、行きあしの制御ができなくなった際、速やかに投錨して行きあしを停止する等の措置をとらなかったこととによって発生したものである。

(受審人の所為)
B受審人は、境港港内の狭い水域で操縦スタンドに就いてCPPの操作に従事する場合、他の操縦レバーと誤って操作しないよう、CPPレバーであることを確かめるべき注意義務があった。しかるに、同人は、CPPレバーであることを確かめなかった職務上の過失により、微速力前進中、クラッチレバーをCPPレバーと誤って操作し、機関操作で行きあしを制御できず、付近の波除堤に係留中のたま丸に向首進行して衝突を招き、同船を圧壊させるとともに鳥取丸の球状船首部に擦過傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A受審人は、境港港内の狭い水域で離岸操船中、機関操作で行きあしを止められなくなった場合、速やかに投錨して行きあしを停止する等の措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、速やかに投錨して行きあしを停止する等の措置をとらなかった職務上の過失により、行きあしを制御しないまま、付近の波除堤に係留中のたま丸に向首進行して衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

よって主文のとおり裁決する。

参考図






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